第6話 ハズレスキル
勇者ミオ
【ユニークスキル】
《
〔能力内容〕
・相手や物質に触れることで時間を奪い10秒間停止状態にする。
〔弱点〕
・既に別のユニークスキルの効果を施されている物質の時間は奪えない。
・再び時間を奪うにはもう一度触れる必要がある。
これが私のユニークスキルか。
……ふ~ん、なるほどね。
「――おい、あの勇者様のスキルだけ見劣りしないか?」
私のステータスを閲覧している騎士達から声が漏れ始める。
「……う、うむ。なんて言うか……そのぅ、微妙だな」
国王まで口を滑らしていた。
「父上、そうでしょうか? 敵の時間を10秒間も奪えるということは一騎打ちにおいてかなり有利に戦える勇者様だと私は思います!」
王女のクレアだけが前向きに評価してくれる。
「そっかぁ? 触れなきゃ発動できないとか、結構条件厳しくね? しかもたった10秒間なんてよ~、超しょぼくね?」
「だねぇ、ハルデ君! 同じ発動条件でも、まだオイラのスキルの方が需要はあるわ! ダッセ~!」
「仮に時間を奪ったとしても防御力と耐久力の高い敵には大した効果がなさそうだわい。ステータス上、それほど攻撃力もないようだし致命傷を与えられんカスだろう!」
「……美少年風のイケメンの癖に、陰キャの僕より劣る奴。初めて見たぞ、ククク……」
ハルデ、トック、マーボ、コウキの四バカ勇者が優越感に浸りながら好き勝手に言っている。
なんなの、こいつら?
この程度でマウント取ったつもり?
『美桜さん……貴女、もしや?』
(黙ってなさい、アイリス。今はこれでいいのよ……)
「まぁ、ユニークスキルが絶対とは限りません。魔法や技能スキルで補う者もおりますし、そうですよね、陛下? ね?」
セラニアがフォロー入れながら、国王に話を振る。
「う、うむ……そうかなぁ。ちょっと余が期待していたのと違うけど、まぁ四人の勇者達に関しては文句のつけようのない真に素晴らしいスキルばかりだ。一人くらいハズレがいても良いだろう」
難色を示し明らかに態度が変わる、ヨハイン国王。
さも私のスキルがハズレだと言いたく、軽視しているのは見え見えだ。
セラニアは必死でフォローしてくれたけど、この国では『ユニークスキル』でその者の優劣が決まってしまう傾向があるみたい。
一種の「スキルカースト」ってやつかしら?
まるで「スクールカースト」みたいで現実世界と変わりないわね。
「では次に移ろう。これより勇者達の頼もしき仲間となる者達を紹介しょう――入って参れ」
国王の呼び掛けに応じ扉が開かれた。
冒険者風の男女が複数ほど謁見の間に入ってくる。
私より若そうな者から、熟練された年配層に至るまで。
それぞれの装いも別々であれば、人間と異なる他種族もいる。
ファンタジーでは定番のエルフにドワーフ、それに小人妖精のリトルフ、獣の耳や尾を持つ獣人族などだ。
初めて目の当たりにする姿に思わずスマホで撮りたくなった。
「この者達は余が選抜した国内でも有能な冒険者達だ。勇者は五名まで『眷属』として仲間にすることができる。其方らに相応しい者達を選ぶが良い」
そういうことね。
まぁ手間が省けて良さそうだけど……この国王が選抜したって点が気に入らないわ。
念のため《鑑定眼》で調べてみたけど、確かにレベル10から20近くと高く伸びしろはあると思うけど、レベル10の私より能力値や技能スキルが劣っているわね。
だったら自分の仲間は自分で探す――これに限るわ。
「陛下、お言葉ではありますがこれから魔王を斃すために苦楽を共にする間であれば、我ら勇者が選ぶより本人の意思で眷属として仕える主を選ぶというのは如何でしょう?」
私の提案に、ヨハイン国王は目を丸くし「え?」と首を傾げる。
明らかに「お前がそれ言う?」という表情だ。
「……ふむ。勇者ミオはこう言っているが、他勇者の意向も必要だろう。其方らの意見を聞きたい」
「俺は別にいいっすよ~。覚醒した『ユニークスキル』も信頼とやらが影響するみたいっすからね~」
「ハルデ君がいいならオイラもいいっす」
「異論はない。逆に俺様について来られる猛者がこの中にいるかだ」
「……なんか林間学校の忌まわしき記憶で、糞ったれキャンプファイアーのフォークダンスで自分だけ取り残されてしまったトラウマがありますけど……この異世界で少し自信がついてきたので、それでいいです」
マウントを取ったつもりでいる四人の勇者は、私の提案をあっさりと受け入れる。
「では選ばれし冒険者達よ。自分が仕えたいと望む勇者達を選ぶがよい」
ヨハイン国王が指示すると冒険者達は一斉に散らばり始める。
自分達が選んだ勇者達の背後で並び始めた。
冒険者であれば《鑑定眼》を身に着けていることは基本だ。
皆が勇者のステータスを確認し、特に『ユニークスキル』に注目していることは明白だった。
チャラ男のハルデ、腰巾着のトック、脳筋のマーボ、陰キャのコウキ、それぞれの背後に六人の冒険者達が集まった。
案の定ハズレスキルと思われている、私には誰も近づかない状況となる。
ある意味、異様な光景ぶりに国王だけでなくセラニアや騎士達ですら呆れたような溜息が漏れた。
(こういう場合、「どうしてよぉ!?」って驚いた顔をすればいいのかしら?)
『知りませんよ! 美桜さんも、こうなるとわかっていて焚きつけたんじゃないですか!?』
アイリスの言う通り、そう仕向けたのは私だけどね。
勇者の眷属となれるのは五人だっけ?
本来なら勇者側から選ぶ手筈だったので、一人は余ってしまうようだ。
せいぜい後で喧嘩しないことを祈るわ(笑)。
「父上、いえ陛下! これはあんまりです! これでは勇者ミオ様が魔王討伐に行けないではありませんか!?」
「いや娘よ、この事態は余のせいではないだろ? その勇者ミオがそうしろって言った結果ではないか?」
「しかし……ミオ様が可哀想」
クレア王女は唇を震わせ、ぎゅっと長くふんわりとしたドレススカートを握りしめている。
国王や周囲は信用できないけど、このお姫様はなんだかまともそうね。
「王女様、どうかご心配なく。自分のことは自分でなんとか致します」
「ミオ様……」
「うむ、勇者ミオもそう言っておるのだ。いざとなればギルドで募集を掛ければ何とかなるだろう。それより、其方らに軍資金を手配する。各々で必要な準備を整え、明日には旅立ってほしい」
国王の合図により、兵士がそれぞれの勇者に布袋を手渡していく。
布袋の中身は軍資金とする金貨のようだが……ちょっと待ってよ。
「陛下、僕の軍資金だけ明らかに少額に見えるのですが?」
お金にシビアな私は初めて不満をブチまける。
「……まぁ其方は一人だから、そのぅ、あれだ。それくらいでいいだろ?」
杜撰ね。ムカつきすぎて返す言葉もないわ。
他のバカ四人は、余りそうなくらい袋が膨らんでいるのに……。
こうして国王の謁見はお開きになった。
各勇者達が城内で国王が用意された装備を整える中、私だけ城内へと外出する。
『――美桜さんは装備を揃えなくて良いのですか?』
目の前を飛び交うフェアリーが不安そうに訊ねてくる。
私だけ見える存在なので周囲に注目されることはない。
「揃えるわよ。だけど、まずは自分の力を見定めなければいけないわ。冒険なんて初めてだし、ましてや魔族やモンスターと戦うなんて現実世界ではあり得ないわ」
だから色々と試す必要がある。
自分の力がどこまで通じるのかを。
何を得意とし、どうすれば勝てるのかを。
そして、
「私のユニークスキル、《タイマー》。決してハズレスキルなんかじゃないわ……やりようによっては十分に無双できる強力なスキルよ。少なくても、四バカ勇者なんかに負ける要素はないでしょうね」
『そういえば美桜さん、《隠蔽》スキルでステータスごと表記内容を偽ってましたね? どのような能力を隠されていたのですか?』
「能ある鷹は爪を隠す――アイリス、あんたにだけ教えてあげる」
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