この女勇者はエグすぎる~転移ガチャでハズレ勇者として追放されたけど、実は普通に無双できるので超余裕!

沙坐麻騎

第1話 間違えられた女

『わ~ん、ごめんなさい! 間違って召喚してしまいましたぁ!』


「はぁ?」


 千景万色に輝くオーロラのような空間の中、女の声が頭に響いてきた。


 私の名は、「幸城 美桜」16歳の女子高生。

 夏休みの初日、近所の公園で愛しい弟と過ごしていたところ、突如この空間に誘われてしまった。


 どうやら『声の主』による仕業なのは確かだ。


『本当は弟の「幸城 真乙」君を異世界へ転移させようとしたのですけど、間違って姉である貴女の方を召喚してしまいました! はわわわ、すみません!』


「あんた誰よ? 私の真乙に何しようとしてんの?」


『わ、わたし……いえ私は女神アイリス。選ばれし者達を異世界へ誘う、導きの女神です』


 いきなり威厳を込めた口調になる女神アイリス。

 あっ、わかったわ……こいつが噂に聞く駄女神ね。


「んで駄女神。あんた、勝手に私を異世界に召喚してどういうつもり?」


『わ、わたしは駄女神ではありません! こほん! それに、ここはまだ異世界ではありません。貴女が住む現実世界と異世界を結ぶ中間となる空間です。その者が宿す能力値アビリティを見極め、導かれし者達をナビゲートしていく聖域なのです』


「勇者? ってことは本来なら弟の『真乙』が導かれる予定だったということね? 所謂、異世界転移モノってやつかしら?」


『ええ、その通りです。転移者あるいは転生者の条件として「強き念」が必要となります。特に転移者しかも「勇者」として導かれる者ほど、強き念が重要となるでしょう』


「大方、勇者になって魔王を斃せってノリ?」


『まったくもってその通りです。流石は日本人の方、こちらの基礎知識をよく周知されていますね。異世界で未曽有の危機こと「災厄周期シーズン」が発生する度、私が現実世界の人間をその時代に誘っております。それは転移者だけでなく、非業の死を遂げ「強き念」を宿した転移者も時間を調整しながら同様となります』


 尚、転生者の場合、能力値によって人間以外の種族に生まれ変わることもあるようだ。


「なるほど主張はよくわかったわ――けどあんた、これ人さらいだからね。普通に犯罪よ、わかっている?」


『え? ええ、まあ……けど、わたし女神ですから』


「んなの関係ないでしょ? しかも私の可愛い弟を拉致しようとしたわね? あんた、絶対に許さないんだから! 姿、見せなさい! 一発ブン殴るわ!」


『はわわわ、お綺麗なのに酷く凶暴な方です! わたしは女神です! なので実体は存在しません! 神界からのテレパシーでお話しているだけです!』


「だったら神界に連れてってよ。そこであんたをブン殴るから」


『つ、連れていくわけないじゃないですか!? もうなんなんですか、貴女は! 早とこ弟さんとチェンジです!』


「駄目よ! あんたみたいな駄女神に大切な弟を転移させないわ! どうせ転移させて放置プレイでしょ!?」


『この人間、身も蓋もないです……確かに転移後は自分の力で戦わなければいけません。予め備わったユニークスキルが発現するかは運やタイミングということもあります。しかし、今回の「災厄周期シーズン」に限り早期に発現することになるでしょう。本来、こうして女神とやり取りするさえあり得ないことなのです』


「つまりそれだけ過酷なクエストってことでしょ? ますます真乙を行かせるわけにはいかないわ! どうしても連れて行くって言うなら、私が行くわ!」


『貴女がですか? まぁ確かに弟さんに匹敵する「強き念」の持ち主ですね……どうりで間違うわけです。しかし、わたしとしては性格が素直そうな真乙君の方が導きやすいというか、ちょろそうというか……』


 この駄女神……次第に本音を漏らしてきたわね。

 超いい加減だってわかってきたわ。


「駄目だって言っているでしょ! その代わり私が『災厄周期シーズン』をクリアするわ! それなら文句ないでしょ!?」


『はぁ、まぁ……それならいいでしょう。けど、わたしが間違って転移させたって言いふらしたらいけませんよ』


「どうしてよ? 女神だもん、無敵でやりたい放題じゃない?」


『いやぁ、そうでもないんですよぉ……異世界の神って信者達の信仰心で力が左右されるんで、わたしが駄女神だと知られちゃったら力を失いかねないじゃないですかぁ。他の神々にも白い目で見られちゃうでしょ? それにここだけの話、日本政府との裏取引で伊能市に住む人間を転生と転移しちゃっているんで、なんて言うか……面目が立たないと言うかぁ、「あれ? アイリスって案外駄目じゃね?」なんてことになったら舐められて嫌じゃないですかぁ』


 瞬間、私はニヤリと口端を上げる。


「そう――いいこと聞いたわ。ベラベラと喋ってくれてありがと!」


『はっ!? はわわわ! しまったです!』


「真乙からラノベ借りて幾つか読んだことあるけど、大抵の転生や転移モノって記憶が残るっているのよね? だったらどっちの世界に行っても、あんたの駄女神っぷりをブチまけることができるってわけね! だって私自身が生き証人となるんだから! 信者達の信仰を失えば、あんたなんか女神じゃなくただの『駄』しか残らないわ! 日本政府も同じよ! ネットにポンコツぶりを書き込んでやる!」


『はわわわ! やめてください! 「駄」だけの存在なんて嫌ですぅ! お願いです! それだけは勘弁してくださいぃぃぃ!』


「……そんなに嫌なの?」


『はい! 実はわたしには「メネーラ」という双子とも言える同一の女神がおりまして……その女神は闇堕ちして暗黒神なって以来、めちゃ険悪な間柄で言わば敵対関係となっています。今回の「災厄周期シーズン」も、メネーラが関与しているようなので失敗が許されないのです』


 けどあんた、冒頭から大失態犯さらしているけどね。


「失敗すれば異世界が滅びる。そうなれば、あんたも女神じゃいられなくなるのかしら?」


『その通りです。それこそ「駄」も残らないでしょう……勿論、繋がっている現実世界にも影響を及ぼします、はい』


 アイリスの言葉に、私は一瞬だけ眉を顰める。

 だけど決して表には見せない。

 ポーカーフェイスは私の得意とするところだ。


 けど現実世界まで影響を及ぼすのであれば話が変わってくるわ。

 放置していたら、真乙や家族を巻き込む事態となり兼ねないでしょうね。

  

 はっきり言って、こんな駄女神は当てにならない。

 ましてや、そんな危険な世界に真乙を転移させる気もないわ。


 ならば、やはり――


「もう一度言うわよ、私が転移するわ! 私が必ず『災厄周期シーズン』を終わらせる! 真乙の転移は無しよ、いいわね!?」


『……わかりました。では美桜さん、まずは貴女のステータスを拝見します』


 アイリスが言うと、目の前に半透明の小窓が浮かび上がる。

 そこには能力値アビリティと呼ばれる数値とスキルが表示されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る