悲しきメリーゴーランド

佐久間清美

プロローグ 目撃 1/2

「るんるんるんっ」


 スキップしながら妙な擬音を発する女なんて、傍から見たら変人。


 危険人物。


 それでも高鳴る鼓動が止められない。


 だって、今日は待ちに待った記念日なんだもん!


 2周年だよっ。


 ここ最近、先輩――彼女は就活で忙しかったからさ、久しぶりに会えるわけですよ。


 記念日に! 恋人に!


「先輩の家でゆっくりとご飯……ふふふっ」


 気持ち悪いですよね。


 通りすがりの人、こっちを見てギョッとするのやめてください。


 仕方ないじゃないですか。


 浮かれちゃって仕方ないんですから。


 沈んでいく夕日に照らされた街をスキップしながら辿り着いた先輩の家。


「んん?」


 アパートの前に車が停まってる。


 いや、別にそれは変なことじゃないんだけど。


 確実にこの家の住民の車じゃない。


 だって、高級外車だもん。黒塗りの。


 今まで見たことないし。


「誰のだろ……」


 まっ、いっか!


 私には関係ないことだし。


 そう思って足を一歩踏み出した瞬間、車に乗っている人物が見えた。


 思わず立ち止まる。


 運転席にはスーツを着た男性、助手席には、


「……は? 先輩?」


 なんで彼女が乗ってるの。


 なんで、仲が良さそうに話をしているの。


 グルグル頭の中で考えたって意味がない。


「知り合いかなあ」


 うん、きっとそう。


 親戚かもしれない。


 うん、そう。


 気にする必要なんてない、のに。


 この胸のざわつきはなに?


 嫌な予感がするのは、どうして?


 頭を振ってモヤモヤを振り払おうとする。


 私ね、勘がよく当たるんですよ。


 でも、先輩に限って。


 私を裏切ることはしないはず。


 そう思っていたら、

「えっ」


 助手席に座る彼女に覆いかぶさるようにして、男性が彼女にキスをした。


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