話し込む 宮益坂は午前二時 月よ止まれとただ念じつつ

話し込む 宮益坂みやますざかは午前二時 月よ止まれとただ念じつつ


※(筆者コメント)

宮益坂はJR渋谷駅の東側に伸びる坂で、西側に伸びる道玄坂や文化村通りに比べると深夜帯は比較的開いている店も少なく、どこか閑散としています。とはいえ、街路灯もコンビニの灯りも煌々とつき、営業時間外の店舗のネオン広告も目にまぶしいものです。そんな中、若者たちがそんな眩しさに目を背けるようにしてあちらこちらで座り込んで話す姿を、夜勤だった私は営業車で宮益坂を通り過ぎながら眺めていました。

夜陰に紛れて相手の顔色を窺いもせず、スケボーが石畳を滑る音やタクシーのクラクションにかき消されないように、いつもより大きな声で話す。午前2時の宮益坂にはきっと昼間ではできない話、昼間では吐き出せない感情が素直に出せる魔法があるのかもしれません。そしてこの魔法が効いている間は、誰もスマホや腕時計で時間を確認などしないのです。そうすることで魔法が溶けてしまうかもしれないと恐れて。それでも月はゆっくりと西へ動いて、時の流れを否が応でも意識づけます。やがて午前4時を過ぎれば大きなロケバスが何台も無遠慮に路上駐車をし始め、もう30分もすればJR山手線が動き出します。魔法はあと数時間の命です。それでも魔法の時間に引き寄せられた若者の声が、今日も深夜の宮益坂に響きます。

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