第6話 うそ、ウソ、嘘

 みんなにとっての嘘ってなんなんだろう。年齢?身長?趣味?あのヒトへの想い?

 俺にとっての嘘は…「全て」だよ。

「じゃあ、今日もよろしくね」

「よろしくお願いします!」

 あれから一年。色々なことがわかった。まずは、あのKSはお母さんを狙っていたものでは無かったこと。そして、真の犯人はそいつと契約したやつである可能性が高いこと。だがそいつは未だわかっていない。なぜKSが見つかったのにも関わらず、わからないのか。それはKSはそいつと一回も会っておらず、ある日金と共に仕事内容の文書と脅しの文書が郵便ポストに入っていたと言うのだ。そしてそれは確定。郵便局に確認済みである。しかしその封筒は燃やすように書かれていたためKSは焼却。そして、郵便物には住所は書かれていなかった。これもまた郵便局に確認済みである。そして差出人の名前。空北 稹は偽名。戸籍は無かった。

 そう、わかったことは多かったもののその分不明なことが倍以上に増えた。

 もちろんKSは逮捕。それに加え、いろいろなことをしていたせいで禁錮系となってしまったらしい。自業自得だが。

 しかし俺はそれどころではない。折角手掛かりが掴めたと思ったのに。…まぁ実際には掴めているのだが…。やはり情報としては薄い。薄すぎる。そして、俺の焦りと裏腹に、俺の俳優人生は進化していった。

「バラエティー番組…」

「そう。香里奈たちが小2になったら良いよって言ってたからね」

「わかった。出る。…でも俺何したら良いの?」

「内容は未だ決まってないらしいんだけど恐らく趣味のこととかじゃないかな。なんたって初出演だからね」

「わかった。考えておく」

 バラエティー番組…か。恐らくドラマのように上手くはいかないだろう。視聴者は無駄に演技をしていない、自然体に近いものを望んでいる筈だ。それをどう演出するか…面白くなってきた。そのためには先ず、情報収集だ。奏多にもらったキャスト一覧を見る。

「司会者…は…赤海 さんご…か」

赤海 さんご。1952年生まれ。好きなことはゴルフ…。ゴルフか。良い。

「奏多さん…ゴルフやってみたい」

「へ?」

「赤海さん、ゴルフ好きなんだって」

「なるほど?話題作りね」

「そう」

「じゃあ軽くで良いよね」

「うん。バレない程度に」

奏多はニヤリと笑ってリビングを出ていった。

「さぁて!始まりました「今日のノってる芸能人たち!!」!さて、今日のゲストは何と、演陵 飛逹君です!!!ではどうぞ!!」

幕が開ける。

「では、自己紹介、お願いしても良いかな!」

「はい!えーっと…」

「はじめましてでええよ!」

「えっと、はじめまして、演陵 飛逹です!よろしくお願いします!」

「はぁい、よろしくお願いしますー!さて、んじゃあ、多分おらんと思うけど早速飛逹君のことをざぁ、って説明していきます」

「4月24日生まれの8歳で、色々なドラマに出演しており、役柄は奇妙な感じの子供がほとんど…ってことやねんけど…実際話してみたらそんなことないなぁ。年相応って感じや。まぁ若干大人びてる感するけど」

「あ、よく言われます!何ででしょうね、僕的にはそんなに気にしてないんですけど」

「あ、やっぱそうなんやぁ。いやぁ、成長すんのが楽しみやわぁ!」

「ありがとうございます!」

にこりと笑う。

「さて、お次は皆さんお待ちかね、「ウワサの君ってどんな人なの!」のコーナーに入っていこうと思います。ってことでね、早速レギュラーのみんなに質問を考えてきてもらったので、答えてもらおかな」

「了解です!」

このコーナーでは、レギュラーの芸能人がゲストに対する質問に答える。が、質問の内容は全くもって知らされておらず、その場で捌く技量が必要だ。

「じゃあまずは高橋ツバサくんからいこか」

「はい!僕からの質問はこちら、「飛逹君の朝について教えて」です!」

「あぁ。なるほど!わかりました!えーっと…毎日7時半に起きて、学校がある時は急いで支度して、撮影の時は台本を見ながら30分くらいゴロゴロしてます」

「おぉ、起きるの結構遅い感じなんや」

「そうなんですよね…僕、本当に朝起きれなくて…。スマホのアラームが30回くらい鳴ってやっと起きる、って感じですね」

そう言うと、会場が湧いた。概ね俺が朝に弱いのを知ってかわいい、と思ったのであろう。それ以外かもしれない…が。

「はぁ…あれ、そういえばツバサくんも朝弱いんちゃうかったっけ」

「そうなんですよぉ、僕が小学生の時も飛逹くんと同じ感じなので、マジで同志、って感じです!」

「あはは!!」

「え、飛逹君って寝起きどんな感じなん?」

「マネージャーさんによると凄い機嫌悪いらしいんですよね…」

「ほぇ、かわええな」

「ありがとうございます…!」

「さて、次はヒロトくん!」

「はい、質問はこちら、「好きなアニメは何ですが」です」

好きなアニメ…。

「うーん、そうですね…あ、「俳優人生」、ですかね」

「あ、それ俺も見たことあるで。でもあれ結構むずいことも言ってたけど理解できたん?」

「まぁ、多少は。僕とリンクするところもあったので」

「そういえば子役時代あったなぁ。ヒロトくんは見たことあるん?」

「ありますよ、僕オタクなので。忘れないでくださいよー!」

そう。この人の質問は大体予想はついていた。ただ、この人の専門分野がアイドルだったので拍子抜けしたが。そこは小2への配慮であろう。

「そういえばそうやったな。さて、次の質問やな。んじゃあ明奈ちゃん!」

「はーい!私からの質問はこれ「ぶっちゃっけ、今好きな子いるの?」です!」

「いきなりぶっこむなぁ…」

やっぱり来た。

「好きな子…好きな子ですか…。いないですね…。そもそも好きな子の基準がわからないっていうか…」

「あ、なるほどー!!好きな子の基準か…たしかに難しいかも」

「みんなが大体同じ感じといいますか」

「あー、可愛いー!!」

「えへ、ありがとうございます」

「恋愛には鈍感。ええなぁ…。女子が喜びそうな感じやな」

「そうですかね…普通引っ張っていくものじゃないんですか??」

「安心して、鈍感なタイプが好きなのが女子なのー!!」

「そうなんですか!?」

母性を擽る。そうすれば女性からのウケを狙える。

 そんな感じで、順調に番組は進んでいき、終盤を迎えた。

「それじゃあまた来週ー!!」

…カーット!!

「ありがとうございました!」

「いやぁ、2時間もよぉ喋れたなぁ」

「疲れました…」

「そりゃそうやわ。ゆっくり休みや」

「そうします…」

 正確には2時間喋ることに疲れたのではなく、一言一言に気を配るのが疲れたのだが。ドラマであれば感情を乗せるだけだから簡単なのに。

「飛逹おつかれ。帰ろっか」

「うん」

 俺は挨拶をして、現場から出た。

「疲れたでしょ」

「一言一言考えて話さないといけないのが面倒臭い。大人相手だし失言は許されないし」

「素を出せば良いのに」

「それはメンタル的にも危ない」

「それもそうだな」

 素を出してそれを殴られる、そう、誹謗中傷されるとなかなか傷は癒えない。芸能人はそれだから1ミリでも、少しでも素の自分を隠す。それが一般的だ。時々そのまま行く人もいるらしいが。俺みたいなタイプにはこれが合っているのであろう。

「香里奈は特別だからな…」

それは知ってる。お母さんがどれだけ特別かってことを。

 香里奈は特別だ。一人だけ違う空間にいる、そう、異次元にいるかのように。

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