旧にとらぶっ♡ 更新停止。古い方です。

南 名刺

プロローグ 二兎宗広の幸せ

 昼前に起床。

 軽く部屋の掃除。

 腹が減ると部屋着のまま外へ。

 近所の町中華で炒飯を食べ、

 コンビニでコーヒーを買い、

 散歩がてら少し遠回りして帰宅。

 タバコに火をつけ、

 好きな漫画をぱらり、とめくる。



 まさに、

 まさに夢のような休日……!



 網戸からは、春の風が穏やかな陽気を運んでくる。

 ふと耳を澄ますと、子供の無邪気な声が微かに聞こえてくる。

 俺は短くなったタバコを灰皿に押し付け、大の字に寝転がった。

 誰にも、

 誰にも邪魔されない最高の空間。


 あー……。

 こんなに幸せでいいんだろうか……。


 たくさん読み込んで色褪せた漫画はよく手に馴染む。

 タバコも最高に美味い。

 最高だ。

 俺はこの為に働いているんだ。

 普段は真っ当に仕事して、休日は思うがままに自由を謳歌する。

 このバランス……。

 どちらかに偏りすぎてはいけない。

 働くときはしっかり働いて、休むときはしっかり休む。


 それでこそ、本当の幸せが生まれる。

 本当の幸せ――それは、何にも囚われない、特別な、自分だけの自由な時間。


 洋食の予定が、通りがかった中華の匂いにつられて急遽予定を変更したり。

 目的も決めずに適当な電車に乗って、知らない町の居酒屋で一杯ひっかけたり。

 こうして昼間から家にこもって好きな漫画を読みふけったり。

 気の向くままに、好きなことを、好きなように、好きなだけ。



 ああ……。

 もう俺には何もいらない。

 この時間さえ、

 この時間さえあれば……。


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