第82話

桜音おとちゃん、いらっしゃいー!もうすぐ千陽ちはる帰ってくるから、ここのリビング涼しいし、とおるも来てるから、そこで待ってたら?」


 早絵さえさんが湯剥きトマトをしている。トマトが大量に採れるようになると、中玉トマトやミニトマトを湯につけて皮をスッと向いて、甘い酢につけると暑い夏の食欲がないときでもデザートのようにスルッと食べれる。


 私も大好きになったトマト料理だった。そのことに気付いている早絵さんが、桜音ちゃんの家に持っていく分も作ってあげるわよ!と笑って言ってくれる。


「桜音ー!来ていたんだ!」


 透くんがバタバタと廊下を走ってきた。その後ろから遊んでもらっていたムーちゃんもきた。早絵さんがやれやれと言う。


「呼び捨てにしないのよ!桜音さんか桜音ちゃんって言いなさいよ。千陽だってまだ呼び捨てしてないわよ」


「えっ……あの……別に桜音でも大丈夫です」   


 私は千陽さんにも呼ばれても良いんだけどなぁと撫でて〜とスリスリしてくるムーちゃんを撫でながらそう思った。


 透くんが、ほーらな!桜音は良いってさ!と言っていると、早絵さんが教育し直すわよ!と怒ってる。男の子六人育てた早絵さんがビシッと言うと迫力があり、透くんが一歩下がり、怯んでる。


「透くん、夏休みの宿題終わったの?」


「あったりまえだろー。だから暇なんだー。たまきいたら、キャッチボールとかできるのになぁ」


 野球している者同士、年齢関係なく楽しめるのね。


 早絵さんがそうだわ!とガタッと立ち上がった。ちょっと待っててー!といなくなる。


「どうしたんですか!?」


「ばあちゃん!……じゃなくて、早絵さん!なにして……」


 透くんがばあちゃん呼びを言い直す。早絵さんがばあちゃんって呼ばれると、ちょっと歳をとった気になるのよねぇと渋るらしい。


 早絵さんが手になにか持ってきて……ペンギン!?


「じゃーん!ペンギンのかき氷機でーす」


「うわぁ!なんか懐かしいです!昔、家にもあったような気がします」


 私が驚くと、透くんがそれのどこが良いんだ?と首を傾げた。早絵さんが見てなさいよーとニヤニヤしたが、あっ!と言って、電話する。


「千陽?イチゴシロップと練乳と氷買ってきてー!……え?うん、そうよ!今すぐよ!」


 これでよし!と早絵さんが、かき氷機を洗って、透明ガラスの普段はそうめんに使ってるものを出してくる。私もかき氷機を拭くのを手伝う。


「母さん!急に買い物頼むのやめろよ!仕事中だったのに!………あ、桜音ちゃん、いらっしゃい」


「ちょっと!?母と彼女の態度の差別はどうかと思うのよ!?まぁ、いいわ。買ってきたでしょうね?」


「至急買ってこいって言うから、汗だくのまま行ってきたよ!父さんがなんだ!?何事だ!?って驚いてたよ」


 千陽さんがレジ袋を早絵さんに渡して、汗を流してくると言ってシャワーをするため、消える。


 ムーちゃんが、せっかく帰ってきたのに千陽さんどこいったの!?と探して部屋をウロウロする。さっきまでムーちゃん、グデーと冷たい床にくっついて伸びてたのに……。


「さあ!かき氷パーティーよ」


 氷を入れて、下にはガラスの器を置いた。早絵さんがくるくるとレバーを回すとシャキシャキと氷が削れる音がした。


「あっ!落ちてきた!」


 透くんが落ちてきた雪のような氷を丸い目で覗いている。どんどんガラスの器にキラキラサラサラと降り積もってゆく。


「透も桜音ちゃんもしてみる?」


 してみたい!と透くんからやってみる。自分の氷を大盛りにして、上から真っ赤ないちごのシロップをかける。練乳はいらなーいと言って、出来上がると、すぐにスプーンを入れて、山を崩し、食べ始めた。


「冷た〜ッ!でもうまーい!」


 すごく気に入ったようだった。早絵さんが満足そうにそうでしょうとも!夏はコレよ!とうなずいた。


 私もシャカシャカと削る。ちょうど千陽さんがシャワーからでてきて、タオルで雫の落ちる髪の毛を拭きつつ、暑かった〜と言う。


「千陽さんからどうぞ。きっと今、食べたら最高だと思います」


「え!?良いの!?」


 私がガラスの器とスプーンを差し出すと嬉しそうに手の上にのせる。


「あらー、良いわねぇ。フフッ。おつかいをして損しなかったでしょ?桜音ちゃん、特製かき氷よ!」


「母さんは一言余計だよ」

  

 そう半眼になる千陽さん。練乳とイチゴシロップをたっぷりかける。サクッとかき氷をスプーンですくう。口に入れるとにっこり笑った。その表情が、なんだか可愛いなぁと思ってしまった。


「はー、美味しすぎる。生き返ったー!」


 あまりの幸せそうな千陽さんに私はまだ食べてないのに、なんだか食べたような気になってしま………え!?私の口にパクッと一口入れた!?


「冷たくて美味しいよね。ありがとう。お先に頂いてごめんね」


 ……なっ、なんで、こういうことをサラッとで、でででできちゃうわけ!?


「桜音ちゃん、かき氷、もう山盛りよ?」


 ハッ!と手を止める。気づくと、ガラスの器に白い雪山のような氷ができていたのだった。


「千陽は、たまに天然。たまに無邪気。たまに確信犯だから気をつけてね」


「はぁ!?母さんは何を桜音ちゃんに言ってるんだよ!?なんのことだよ!?」


 早絵さんが私と千陽さんを見て、楽しそうにニヤニヤとしていたのだった。

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