怪人少女は愛を結ぶ
目が覚めたら知らない天井が見えた。
実際にこういうことが起きたのははじめてだ。
エンジン音と揺れる感覚からすると乗り物の中かと推測できた。
「意識が戻ったか、起きれるか?」
聞こえてくる声は…佐倉だ。
「あ、目が覚めたんだ、暴れないでよ?」
続けて聞こえてきたのは遊里の声だ。
佐倉に聞かれたことを実行しようとすると、痛みは相当なものだが起きれないわけじゃなかった。
ものすごく痛むのは確かだが、これは自業自得だ。
「ああ、なんとか起きれる…遊里が運転してるのか」
起きて二人の様子を確認すると、佐倉が助手席で遊里が運転席で車を運転しているようだった。
「それだけ怪我してるのに動けるのか…」
「
後ろから聞こえてきた声の主は佐倉の連れの二人だ。
どうやら俺は車の真ん中のシートをベッドにして寝かされていたらしい。
「願いを叶える薬だからな、体も丈夫にはなっている…痛みはあるがな」
「それだけ怪我をしていれば当然だ、飲むか?」
俺が痛みがあることを口にすると、佐倉が青い液体の入った瓶を見せてきた。
「それは?」
「ポーションだ」
「もらおう」
ポーションを受け取って飲んでみるとその効果は劇的だった。
完全に治ったわけじゃなかったが、動くには支障はなくなった、と自分では思えた。
「かなり効くな」
「ああ、俺もあの後飲んだがここまで効くとは思ってなかった」
「俺とやってるときには飲まなかったのか?」
「本当に危なかったら使うつもりだったが、そこまで追い詰められなかったからな」
「…そうか」
これが準備を怠らなかった佐倉と準備を怠っていた俺の差だということなんだろう。
「それでコルトのところに向かっているのか?」
「ああ、赤司と無道の受け入れの準備はもうできているようだからな。歓迎の準備もしているそうだ」
「…寝ているうちに運ばれてたけど、あんたはいいのか?」
佐倉の連れの朝倉 透真、と言ったか、が聞いてくる。
「佐倉も言っていただろう、力は証明されたんだ。行かない理由はもうない」
「そうなのか…」
「元々俺だけでこの世界の理不尽をすべてどうにかできるとは思っていない」
「そんなの当たり前でしょ、一人の力なんてたかが知れてるんだし」
遊里の言う事はもっともなことだ。
「ああ、佐倉もコルトもお前達もそれを証明した」
「コルトもやってくれるわよね、感謝しないと」
「…そうだな、一人で燻っているよりはよほど良い」
燻っているだけでなにもしてこなかった俺に遊里の言葉を否定することはできない。
遊里の力になったこの車もコルトが準備してきたものなんだろう。
おそらく俺の力になるなにかもコルトは用意しているはずだ。
これからどうするかはもう決まった。
ならば、あとは進むのみ。
その先になにが待っているとしても、だ。
「涼斗が起きたんなら佐倉ちゃんも少し休んだら?カルロスもいるし、交代で休んでもいいと思うんだけど」
「カルロス?」
『マスター・遊里が名付けた私の名前です』
車から聞こえてきた機械音声が答える。
「…AIか?」
『はい、グランドマスター・コルトがあらゆる技術を融合して生み出した人工知能AIです』
「あらゆる技術って…」
佐倉の連れのもう一人、出雲 彩がカルロスの大雑把な返答に疑問を返す。
『この世界にはあらゆるものが存在します。宇宙人、異世界人、魔法少女、ヒーロー、量子生命体、魔獣、悪魔、妖怪…例を挙げると切りがないでしょう。それぞれに独自の魔法や技術があるため、あらゆる技術、という表現になりました』
「あ、うん、そうだね」
『グランドマスター・コルトは控えめにいって狂っています。自らが触れてきたあらゆる技術をさらに独自の技術で融合させ、新たなものを生み出していく。私や
自分で生み出したAIに狂っているって言われるあいつはなんなんだ…。
…いや、言ってることは間違いじゃないんだろう。
そして、それだけのことができないと目標は達成できないからやっている、ということなんだろう。
「カルロス、そういうのは今度でいいよ。佐倉ちゃんが休めるように警戒の方よろしくね」
『イエス、マスター・遊里』
「うん、というわけで、カルロスが警戒してくれるし、なにかあっても涼斗と私達である程度の対応はできるから、少し休んでよ」
「ポーションも飲んだから大丈夫だが…そうだな、少し目を閉じるとする、ありがとう」
「どういたしまして♪」
こうして流れを見ていると遊里もすっきりしているように見える。
「それじゃ、カルロスはナビもよろしくね」
『イエス、マスター・遊里』
「では、いざゆかん!デモノカンパニーへ!」
そうして、俺達はコルトの待つ会社へと向かっていった。
❖
「おかえり」
デモノカンパニーに戻ってコルト達の待っているはずの部屋に行くと、いつもの様子でコルトがそう出迎えた。
「ただいま」
おかえりと出迎えられた以上はこう返すのが礼儀だろう。
「彩君と透真君もおかえり、無事でなによりだよ」
「あ、はい、ただいまです」
「…コルトさんもお疲れ様です」
彩君は返答に困りながらも俺と同じ返事をしたが、透真君は仕事であるということに悩みながらも妥当だろうと思ったらしい返事をした。
「遊里も涼斗もよく来てくれたね、ありがとう、歓迎するよ」
「ううん、こっちこそありがとうね」
「…悪い、面倒をかけた」
コルトの望んだ通りの悪くない方向に持っていけたようでなによりだ。
そうしているとドアをノックする音が聞こえて律君と海斗君が入ってきた。
「戻ったんだね、お帰り」
「そっちの人達が例の人達かな?」
お互いを紹介しておくべきだろう。
「ああ、無道 遊里と赤司 涼斗だ。こっちは高科 律と雨野 海斗だ」
「そっか、二人が彩ちゃんが言ってた友達かな。無道 遊里です、これからよろしくね」
「赤司 涼斗」
「雨野 海斗です、よろしくお願いします」
「あ、高科 律です」
お互いを紹介した後に、それぞれが自己紹介をしていった。
「それじゃ、準備もできてるし歓迎会を兼ねた夕食にしようか」
「うん、賛成!」
コルトの言葉に無道が続いて、そのまま夕食の時間となった。
それぞれに食事を楽しみながら、今回の件や食事の感想についての話が進む。
「佐倉ちゃんが42歳だって言うのは驚いたよねー」
「え!?なにその話!?」
「またまた冗談を」
「本当のことだ」
仕事中に話したことを律君と海斗君にも話すことになった。
元々男だったことや
「彩ちゃん達も知らなかったみたいだけど、なんで話してなかったの?」
「聞かれなかったからだ」
「話したくなかったとかじゃなくて?」
「話しても問題はないが、聞かれてもいないのに話すことでもない」
「あ、うん、そっか」
律君と海斗君のなんとも言えない反応に対して彩君と透真君が頷いていたが、それは気にすることでもないんだろう。
人それぞれ思うところはあるのだろうから。
無道のコミュニケーション能力が高いのか、思いつくままに話題を振るので元々コミュニケーション能力が高い律君と海斗君とも割と打ち解けているように見える。
赤司も聞かれたことには答えていたのでコミュニケーションを取るつもりはあるようだ。
「そういえばコルト、車ありがとうね。あれがなかったら来れなかったかもしれないし」
「そうだな…遊里用にも用意しているとは思ってはいなかった」
「ん、ああ、いやあれは遊里専用というわけじゃないよ。今回はそういう運用をしたけど、本来は複数人で役割分担して運用する予定のものなんだ」
「え、そうなの?」
「うん、遊里専用のは別にあるからね。あの車は彩君か透真君か律君か海斗君の誰かが免許取れたら4人で運用してもらうつもりだよ」
「「「「え?」」」」
4人も自分達用だとは思っていなかったようだが、今コルトが言った話は俺も初耳だ。
「そうだったのか、初耳だな」
「うん、言ってないからね。あと涼斗用の武装も準備はしてるし、遊里専用の武装と合わせて調整はしていく予定だよ」
「私専用の武装ってどんなの?」
「うん、とりあえずこれ渡しておくね」
そう言ってコルトは腕時計型のツールを無道に渡した。
「時計?」
「秋が取り込んだツールと同じようなものだけど、それに遊里命名のカルロスと同期もできるやつだよ」
「カルロスと?」
話しながら無道は使い方がわかったのか、ツールを起動してセットアップしていく。
「ふむふむ…これで、いけるかな?」
『同期完了しました、マスター・遊里、これからもよろしくお願いします』
「うん、よろしくね!」
楽しげにしている様子を見ながらコルトが話を進めていく。
「それで遊里の専用武装は大雑把に言うと人型機動兵器だね」
「つまり人型ロボット?」
「うん、現状は全長5メートルくらいだけど、今後どういう方向に進めるかは遊里次第かな。それにカルロスを同期させて情報を蓄積させていって最適化していこうかなって思ってはいるんだけど、これはあくまで僕の予定だから実際どうするか決めるのは使う遊里であるべきだよね」
「なるほど、データをカルロスに纏めておけば機体は更新できるもんね」
「そうだね、あとはそれと並行してパワードスーツの方も進めていくつもり。機体もスーツも遠隔操作できるようにしていくけど、実際に乗って動かしたほうがラグは少ないから、その辺りも今後色々考えていきたいよね」
コルトの持っている謎技術は魔法だけじゃなく、科学分野でも相当なもののようだ。
人が増えたら増えただけ、これからさらに多くの選択肢を選べるようになるのかもしれない。
「俺専用の武装っていうのは?」
無道の話を聞いていて気になったのか赤司も質問を投げかけた。
「涼斗のは単純にヒーローみたいなスーツと武器になるかな。防御力と身体能力の強化、あとは火力の底上げって感じでさ」
「…俺はヒーローじゃない」
「あくまで例えだよ、武装の見た目と性能についてはこれから涼斗の使いやすいように好きに魔改造していけばいいと思ってるしね。あ、もちろん僕も手伝うよ?」
「ああ、よろしく頼む」
こうして見ると無道と赤司とコルトが友人だというのがよく理解る。
友人達が共に在れるというのは見ていても良いものだ。
「秋、どうかしたのかい?」
「いや、友人の仲を取り持てたようで良かったと思っただけだ」
「そっか、うん、ありがとうね」
「私からもありがとうね!」
「…感謝する」
コルトに続いて、無道と赤司もそう言ってくれたのは嬉しいものだ。
そういえば…。
「そういえば無道と赤司は恋人なのか?」
「いや、惚れてはいるが恋人じゃないな」
「「え!?」」
「…なんでコルトと遊里も驚いているんだ」
「いや、だって君そんなこと言ったことないだろ!?」
「そうよ!そんなのあんたの口からはじめて聞いたわよ!?」
コルトがこんな風になっているのははじめて見た。
赤司の告白に彩君と律君は顔を少し赤くして興味津々な様子だ。
透真君と海斗君は赤司を尊敬でもしているかのような目で見ている。
「まあ、言ったことはないからな」
「なんで言わないのよ!?」
「聞かれなかったからな…言っておいたほうが良かったか?」
「それは…あー、うー!」
唸っている無道に赤司は少し考える素振りをしてから言葉を告げる。
「この世界は明日もまたこうして顔を合わせられるとは限らない世界だ。だからやっておけばよかったと後悔しないように伝えておこう」
「…っ!」
無道が息を飲む音が聞こえるが、赤司は構わず言葉を続ける。
「遊里、俺はお前に惚れている」
無道の顔が紅く染まる。
「俺のやってきたことがお前を傷つけてきたのは理解っているが、それでも俺は伝えよう」
――――――――俺と共に生きてくれ――――――――
その言葉を聞いて無道が腰が抜けたのか崩れ落ちそうになるが、赤司がそれを支える。
「返事は?」
「うー!あんた無駄に私好みなワイルドなイケメンで、性格も身内に甘い良いやつで、浮気も絶対しないって理解ってるし!」
「ああ、それで?」
「変に執着して縛り付けたのは理不尽だって思ってるし!」
「ああ、悪かった」
「友達少ないっていうかほとんどいないのも知ってるし!」
「ああ、お前達がいればそれでいいからな」
言葉の流れから無道がなんとなく混乱しているように見えてしまう。
急に告白されたからこうなったということなのかもしれない。
「ーーーーーっ!断れるわけないじゃん!」
「そうか、なら結婚を前提に付き合ってくれ、返事は『はい』か『いいえ』で頼む」
「…!う、う、う…はい、不束者、です、が、よろしく、お願い、します」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
コルトが横で涙を流しながら微笑んでいる。
おそらく友人の赤司と無道がこうなったのが嬉しいんだろう。
彩君と律君も顔をさっきよりも赤くしながら嬉しそうにしている。
海斗君と透真君の赤司達を見る目がさっきよりも熱くなっている、ような気もする。
カルロスは空気を読んでいるのか無言のままだが、実際空気を読んでいるのだとしたら無道の良いサポートになれるんだろう。
ともあれ、こういうときに贈る言葉はきっとこれでいいだろうと思う。
軽く響くような拍手をしながら、俺はその言葉を口にした。
―――――おめでとう―――――
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