伝えたい言葉
恋愛妄想男
人生に絶望しかない男子が求めるもの
「ねぇ!ここに抜け道があるよ!」ゆうきは言った。
「あ、本当だ!けど、、、」僕は言葉が詰まった。
「でも、真ん中に大きな化け物がいるし。」たかしは心配そうに言った。
「大丈夫!そいつは寝ているだけだから、ゆっくり通れば安全だよ!」
「うわ!化け物が起きた!」
「めんどくさ!なら俺達の原生生物で戦わせよ!」
なおやは、近所の友達であるゆうきとたかしの3人で、ゲームを楽しんでいた。
「よっしゃ!倒した!」
「結局、化け物と戦ったね笑」
「でも勝ったからいいじゃん!」
「まぁ、そうだけど。。。」
4歳のなおやは、自分の家の隣に住んでいる4歳のゆうきと、3歳のたかしと一緒にゲームで遊んでいた。
このゲームは、ある星から来たとても小さい主人公が、宇宙船の故障で地球に舞い降りていき、地球にいる生き物と協力しながら、宇宙船の部品を回収して、元の星へ戻るゲームである。このゲームは、宇宙船の部品を回収する途中に、様々な生物と戦うのだが、その生物がとても生々しくてリアルである。
そして、ゲームをしている兄弟だが、プレースタイルや反応から性格の違いが大きく出ている。
ゆうきとたかしは兄弟であるが、性格は真反対である。
ゆうきはガキ大将のような気の持ち主で、どんな事でも勇敢に立ち向かう。対して弟のたかしは、とても気弱な性格で、ゲームの化け物に対しても少し怖がっているように見えた。
なおやは、どちらかと言うとたかしよりの性格だったので、たかしに少し共感する気持ちは強い。
「まぁでも、確かに化け物はちょっと怖かったね笑」なおやは言った。
「だよね!起きた時は本当にびっくりした!」
「えぇ〜、倒せばいいのに。」
「お兄ちゃんにはこいつの怖さがわからないの?!」
ゆうきとたかしは、正反対の性格なので、意見が合わない事がしょっちゅう起こる。
そして、なおやはこの二人の兄弟を見て、兄弟でここまで性格が違う事にとても興味を抱いていた。
それと同時に、この二人と遊ぶ事が心の底から楽しかった。
「ねぇ、ゲームに飽きたし、外の公園で遊ぼうよ!」ゆうきは言った。
「確かに飽きたよね。」なおやは言った。
「え〜、僕はもっとゲームで遊びたい!」
「また後でやろうぜ!」
ゆうきはそう言った途端、3人は近所の公園へ出かけた。
なおや達が住んでいる地域は、自然に囲まれていた。山のふもとであるので、家の他には建物が全くない。なので、一見すると不便そうに見えるが、季節の変わり目に自然が表現する景色を思う存分楽しむことができる。
特に春になると、なおや達が遊んでいる公園の周辺は、ピンク色の桜が満開になりとても綺麗である。しかし、山のふもとなので、そんなに人が集まらないので、なおやはゆっくり絶景を満喫できる事にとても満足していた。
今日は4月2日だったので、家から坂を降りて3分で公園に着くと、満面の桜が僕達を迎え入れてくれた。しかし、ゆうき達はもうすでに鬼ごっこをする気満々である。
「なおやがオニだな!」ゆうきは言った。
「よし!すぐ捕まえてやる!たかし〜!」
「え!僕の所にくるの?!ちょっと待って!」
桜が吹雪のように待っていく中で、なおや達ははしゃぎながら鬼ごっこを楽しんでいた。一見すると何の変哲もない日常だと思う。しかし、なおやにとってこの日常はとても楽しくて幸せに溢れていた。
しかし、そんな日常は突然壊れてしまう。
なおやの家庭は、一見するととても裕福に見えた。
父親であるとしおは、鉄鋼業の自営業を行っており、年収が1200万円程の経済力を持っている。そして、父親であるとしおの性格は、至って穏やかでとても大人しい。家にいても仕事に対する愚痴は一切言わず、とても優しい人だった。
一方母親であるさえみは、かなり
なのでなおやは、本来母親の事が好きなのだが、お酒を飲んで心が不安定になっているさえみの事だけはものすごく嫌いだったし、無意識で怒りが溜まっていた。
そして、なおやには妹であるゆうこがいた。ゆうこは、内向的であるなおやと違って、かなり外交的であった。幼い頃から、自分の意見をしっかりと持っていて、感情がとても豊かだった。それ故に、よく怒ったり泣いたりしていた。
そんなゆうこに対して、さえみは不機嫌な様子で叱ったりしていた。恐らく、自分の思う通りにならないゆうこに対して、怒りがあったのだろう。そしてなおやはよく、さえみの愚痴の聞き役として、ゆうこの悪口をずっと聞いていた。
しかしなおやは、さえみに対して怒りを表現しなかった。なぜかというと、心の底で母親であるさえみの事が好きだったからだ。子供が親の事を生物的に好きになるのは当然であり、親から愛されたいと思うのは、どんな子供でも思っている事である。
しかしなおやは、さえみがゆうこの感情豊かなところを嫌っている所を見て、感情をあまり表現しない事にした。なぜかというと、感情豊かになったら母親に嫌われるし、愛され無くなるのがなおやにとってとても怖かったからだ。
そんなわけで、なおやはさえみにとっていい子でいたが、ある事件をきっかけになおやは初めてさえみに怒りを放った。
それはなおやが4歳の時の冬の頃、家の2階で事件が起きた。
当時のなおやは、まださえみと一緒に寝ていた。怖がりであるなおやは、一人で真っ暗の部屋で睡眠を取ることが難しかったので、としおとさえみが寝ている部屋で一緒に寝ていた。これでなおやは安心して寝る事ができた。
このように、当時のなおやは両親と一緒に寝ていたが、ある日さえみが寝室でなおやがわかるぐらいイライラしていた。理由は隣の家で飼っている犬の鳴き声である。
ゆうき達が住んでいる隣の家には、サモエドと呼ばれる犬を飼っていた。体の大きさが55cm程あり、白い毛に覆われた大型犬であり、性格はとても愛情深くて大人しい。そしてゆうき達からは、「メグ」と呼ばれていた。
そんなメグは、普段は全く吠えないのに、その夜だけよく吠えていた。そして、その鳴き声は隣の家であるなおやの家まで届いていた。
「あ、メグが鳴いてるなぁ。」
なおやはメグの鳴き声を聞いた時、ふわっとこのように思った。そして、そんなに気にしていなかったので、そのまま眠りに着こうとした。
すると、さえみが突然布団から立ち上がり、ドアを開けて廊下へ歩いていった。
そして、寝室側の反対にあるトイレの部屋に行き、窓を開けて隣の家に大声で罵声を浴びせた。
「うるさい!!!!」
なおやはびっくりした。
母親があんな大声で叫んだのを初めて見たからだ。それと同時に、大きな不安と恐怖が頭の中に湧き起こった。
しかし、さえみはその事には気づかず、階段を降りて一階へ行き、玄関から外へ出かけた。
なおやはそのまま寝ようと思ったが、あまりにも不安だったので、2階の寝室から一階の玄関へ行き、そっと玄関の扉を開けた。
するとそこには、さえみとゆうき達の母親が激しく口論をしていた。二人の会話はあまりうまく聞く事ができなかったが、二人の表情が驚く程真剣だったので、とても子供が聞いて良い話ではない事がわかった。
なおやは、さえみの怒っている表情をずっと見たくないと考えたので、玄関の扉を閉めて一人で寝室に戻り、布団にくるまった。
そしてなおやは、誰にも気づかぬように深い眠りについた。
さえみとゆうき達の母親が喧嘩した次の日から、ゆうき達と遊ばなくなった。言い換えると遊べなくなった。
なおや自身は、ゆうき達と一緒に遊ぶのが好きだったが、親達の交流が途絶えた事で、遊ぶ機会が自然消滅した。
この事についてなおやは、しょうがないと自分に言い聞かせていたが、心の底ではフツフツとした怒りが溜まっていった。
そしてある日、その怒りが漏れてしまった。
そのきっかけはとても
「今すぐゲームを辞めて!!」
「なんで?」
「ゲームは1時間までって言ってるでしょ?!」
「。。。」
確かになおやは当時、RPGのゲームにとてもハマっていて、自分でも少しやりすぎだと思うぐらい、家でゲームをしていた。
しかしなおやは、さえみのせいで遊ぶ友達が減った事が原因だと意識的にわかっていた。
そして、ついになおやは、人生で初めて親に怒りを放った。
「母さんのせいで、ゆうき達と遊べなくなったから、ゲームしてるんやろうが。」
その事を言った途端、スッと当たりが静かになった。そして、なおやの心もスッと静かになった。
しかし、ある意外な声が、静かな静寂を切り裂いた。
「スゥん。。。ぐすん。。。」
なおやは、音の位置を確かめるために顔を上げた。そしてそこには、泣き顔で泣いているさえみがいた。
「え、何で泣いてるの?」
なおやは意外そうにそういうと、さえみはまだ子供であるなおやに次の一言を言った。
「なおやが、、、そんな酷いことを言うから。。。」
この風景を見たなおやは、初めて罪悪感というものが芽生えた。自分の言葉が相手を傷つける事を初めて知った。
それと同時に、母親であるさえみの泣き顔をもう見たくないと強く思った。
「ごめん。。。ごめんな。。。」
なおやは、必死にさえみを慰めた。
そしてこの時なおやは、相手に本音を言う事をやめようと思った。そして、ずっといい子でいて、母親を悲しませないようにしようと心に決めた。
この判断が後に、なおやの人生に暗い影を落とす事になった。
なおやは、中学受験を受けて見事合格し、私立の中学校へ進んだ。そして、大阪の枚方にある中高一貫校へ登校した。
中学に入学した初期のなおやは、クラスへうまく馴染めるかがとても不安で、いじめられるのかとても不安だった。なので、できるだけ早くクラスに馴染むように、勇気を出して話を振ったり、常に笑顔でいることに注力した。そのおかげで、中学一年生の時は、いくつかの友達ができて、クラスに馴染むことができた。
クラスに馴染めたなおやは、自分もそれなりに楽しめて学校生活を送っていた。主にいじられキャラとして存在し、友達からよく揶揄われていた。しかし、なおやは全く悪くは感じなかったし、慣れない環境で友達がいる事は素直に嬉しかった。
なおやは中学では登山部に入っていて、学校の休みの日に山を登ったり、人工的に作られた岩を登るクライミングもしていた。そこでも違うクラスの友達を作る事ができた。なおやは、とても充実していた日を過ごしていた。
特になおやは、やまととはやしの3人で遊んでいた。
やまとは、なおやより10センチ程高い男で、かなり体型が良い。顔は目が細くて、目つきが悪かったので、なおやは最初やまとに対して怖がっていたが、性格はノリが良くてかなり外交的であった。たまにブラックジョークを吐いたり、悪口を叩く事が多いが、クラスではかなり人気があった。
はやしは、やまとと身長は同じぐらいで、顔立ちはかなり整っていた。イタリア人を想起させるような鼻の高さと瞳孔が大きな目が特徴的で、とてもイケメンである。その原因もあって、女性からとても人気があった。
この二人は、かなりクラスで人気があって、その二人とほぼ一緒にいるなおやは、自分までステータスが高くなったように感じられた。今思うと、それはただの錯覚だったのだが、クラスに馴染めているように感じられたので、なおやはとても満足をしていた。
このような形で順調にクラスへ馴染む事ができたなおやは、嫌われる不安が常にあったが、嫌われない事に全力で努力をしていて、全く嫌われなかったので、駆け出しの良い学校生活を送る事ができた。
しかし、あることがきっかけでこの日常が崩れてしまう。
中学2年生になったなおやは、新しいクラスにとても緊張感を覚えていた。当時のなおやは部活に入っていたので、ある程度友達はいたのだが、まだ話したことのない人がいることにとてもドキドキした。
「また違ったクラスになったのちょっと緊張するなぁ。」
そう思いつつ、なおやは以前のようにずっと笑顔でいることにした。そうすることで、またいじられキャラとしてクラスに馴染もうと頑張った。
ある日、なおやはしげるに話しかけられた。
「おい、明日1000円持ってこいよ。」
「えぇ、嫌やわぁ。」
「いいから持ってこいよ。」
しげるは、かなり嫌なやつで、自分より弱いと決めた相手には、とことんと大きな態度を取っていた。具体的に言うと、しげるはやまとにはいつもヘコヘコしていたが、なおやにはかなり威張った態度をしていた。
「ちっ、使えねぇな。」
「。。。」
なおやは当然の事、しげるの事が大嫌いだった。しかし、なおやはしげると喧嘩する事以上に、嫌われる事への恐怖の方が勝っていた。
なのでなおやは、しげるに対しても当たり障りない対応をしていた。なのでしげるは、なおやに対して舐めた態度で出ることをしていた。
しかし、なおやに対して見下した態度を取るのはしげるだけではなかった。なおやがずっと笑顔でいる事に対して、なおやは何をやっても怒らないと言う認識が、着々と周りの人間が理解してきていた。それはやまとも同じだった。
一学期が始まって6月の頃、やまとはなおやにある一言を言った。
「おい、一万円持ってこいよ。」
「えぇ。嫌だよ。」なおやは笑顔で言った。
「いや、そういうのいいから、持ってこいよ。」
何故かやまとが怒っているように見えた。そしてなおやは、やまとの表情を見て恐怖を抱いた。やまとを怒らせると、何か自分の身にとてつもない危険が降ってくるように感じた。
その日の夕方、なおやは真顔のやまとの表情が忘れられなかった。ずっと頭の中にあの怖い表情が残っていた。
「明日、一万円を持ってこなかったらどうしよう。」
なおやは家に帰ってもずっと恐怖心を持っていた。明日、一万円を持ってこなかったら嫌われるかもしれない。
そして嫌われてしまったら、いじめられるかもしれない。みんなからはみごにされて、1人ぼっちになるかもしれない。その恐怖になおやは支配されていた。
「。。。」
深夜1時、なおやは立ち上がった。そして、2階の自分の部屋から、一階のリビングルームへ駆け降りた。
一階のリビングルームは、右側には白色のソファーがあり、ソファーの正面に大きなテレビがあった。そして、リビングルームの真ん中には、6段式で白色のタンスがおいてあり、その左下には小さなヒーターがあった。
そして、父親はリビングルームの右側にあるソファーでぐっすりと寝ていた。そしてタンスの上には、革式で黒色の財布がポツンと乗っかっていた。父親の財布である。
「お父さん、ごめんな。。。」
そう言ってなおやは、父親の財布を開けた。
なおやはその後、徐々にいじめられていった。原因は、やまとに一万円を渡した事が原因であった。
主にやまととしげるにいじめられた。なおやが一万円を渡した事をきっかけにさらにお金を巻き上げていった。
「お前、お金持ってくる事ぐらいしか価値が無いんやから、早くお金持ってこいよ」
「、、、うん。」
なおやは二つの言葉で返事をし、家に帰って父親の財布からお金を盗んでいた。父親に対してはとても罪悪感を抱いていたが、それ以上に嫌われる恐怖の方が勝っていた。
そして最初は、やまととしげるだけがいじめてきたが、徐々に他のクラスメイトからも危害を加えられるようになった。具体的に言うと、髪の毛を引っ張られたり、怪我をした傷口をさらに抉られたり、殴られたりしていた。
さらに肉体的ないじめではなく、精神的ないじめも受けた。クラスから仲間外れにされたのである。例えば遠足の時に、明らかに俺を避けて一人でご飯を食わせようとしてきたり、クラスで無視をしてきたりしていた。
しかし、こうした経験をしてもなおやは、クラスに馴染もうとずっと笑顔でいた。もはや笑顔でいる事以外で人と関わる方法がわからなかったからだ。心の奥の方では大きなストレスをずっと抱え込んでいたが、それを隠そうとずっと笑顔でいた。
なおやは心の辛さを隠そうとしたが、体は全く嘘をつかなかった。まず頭に白髪が増えてきた。最初は遺伝かと思ったが、クラスが変わった途端に生えてきたのでストレスだと徐々に認識していった。
ある日なおやは、クラスメイトからマジックペンで頭を落書きされた。落書きされた当時のなおやは、坊主頭になってしまったので、落書きの跡が頭皮に残っていた。そして、その跡を母親に見られた。
「え、なんで頭皮にマジックペンがついてるの?」
「。。。」
なおやはこの時、かなり焦っていた。それはいじめられている事を親にバレるのもそうだが、それ以上に自分がいじめられていると言う現実を受け入れないといけない事がとても嫌だったからだ。
「、、、あんたいじめられてるの?」
「。。。」
なおやは黙った。もうこれ以上何もできないと思った。
自分がいじめられている事を認めざるを得ないと思った。母親であるさえみは、なおやがいじめられている事を、祖母や妹に言った。なのでなおやは、転校させられる覚悟をしていた。
しかし、母親のさえみは、どこか他人事のように言っていた。まるで自分は全く悪くないと言うような言い草だった。
そして、次の日もなおやは学校へ行った。まるで何事もなかったかのように毎日いじめられた。
ここでなおやは、薄々ではあるが、両親がなおやの事を、どうでも良い存在と捉えていると言う事がわかっていた。なおやがいじめられていると言う事を見て見ぬふりをして、現実逃避をしている事を徐々になおやは理解していった。それと同時になおやは、自分には味方なんて誰もいないと言う事を薄々とじわじわと自覚していった。
こんな感じでなおやは、友達も両親も誰も味方がいなかったので、心を閉ざして言った。最初はなおやに話しかける友達もいたが、なおやが白髪頭になっていくと、だんだんと気持ち悪がっていき、離れていった。このような経験からなおやは、元々口数が少なかったが、さらに喋らなくなっていき、無力感が体を蝕んでいった。
そして来る日も来る日もいじめに耐えていった。
こうしてなおやは大学一年生になるまで、無口な存在となり、友達も作らなくなり、無気力な感情をずっと持ち続けていた。
ある一人の少女に出会うまでは。
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