私は世界に抗っていたい
影宮紅麻
第1話 平穏は飾れない
待ち行く人々が、居場所はネットだと言わんばかりにイヤホンに耳を傾けている。
電車の中で本を読む人間などおらず、それを求める人間もいない。
スマホとイヤホンがないと人生は成り立たないと誰かが言っているのを聞いたことがある。別に否定するわけではない。否定する必要もない。
居場所を求めることも、居場所がなくならないものであることも、大事だ。
私みたいに失敗しなければいいのだ。
いつからか友人はいないし、家族だって心置ける居場所ではなくなって、ひとりでいられる時間だけが私だった。
学校の私、家での私、ひとりの私。
すべて交わることのない私はスマホもイヤホンも掛け替えのないもののはずなのに、好きだと思えなかった。
みんなが好いているものは私の好きではない。抗いたいと思ってしまう。
そんな私を周りは「中二病」と笑っている。
でも、私はみんなと何も変わらない。
推しを見て幸せを感じる。真剣になれるものだってある。授業もサボらない。
みんなと変わらずそれなりに生きているつもりだ。趣味も特技も一応あるし、自己肯定感が著しく低いわけでも、勉強ができないわけでもない。じゃあ、なにが不満なのか。そんなこと私もわからない。ただみんな感じることの中で不満を感じやすいのだ。きっとそれだけ。
クラスの無視や、嘲笑う声なんてどうでもよくて、掃除も少しやることが増えてもみんなこんなものだって割り切れるんだ。ただつまらない。
毎日がつまらないのが嫌で今も目の前に車が飛び出してくるのをわかっていても歩くことを止めない。
あぁ、やっと終わる……。つまらないことが嫌なのに変えれなかった自分が終わるんだ。本当に何もなかったな。何もないままだったんだな。視界にはもう車しか見えない。
激痛が走るはずなのに何もない……。
ふと見ると、私を轢くはずだった車の向こう側に私は立っている。
「何してんだよ。お前はまだそんなもんの下敷きになる未来はねぇよ。避けれただろ?なんで避けないんだ?」若い生意気な声が聞こえた気がする。でも、私は覚悟していたのに。裏切られて、かっとなった。
「なんで……私は今避けたの?チャンスだったのに。くだらない日常から消えることができたのに……。」その場にしゃがみ込んだ私にコートのようなものが見える。そいつが喋った。
「お前は今逝って良い人間じゃないんだよ。神は今みんな忙しいから俺様がお前を助けてやったんだよ。安心しろ。今の車の運転手はお前を覚えてないからな。あと、今を憂鬱に思う声や顔をしてるが、お前はまだ、先が長い、んだ。しっかりしろ。俺様がお前をいつだって楽しくさせてやるからよ。」頬をかきながらにっこり笑うこいつは何様なのか……。
壊そうとした日常を壊された私の気持ちなど知らず、気にしてもいなかった運転手の話をするこいつが私の平穏を壊せるのかなんて、無理に決まってる。
ただ、そいつを睨み付けて私は逃げるように走り去った。
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