KILLER
夕凛
プロローグ
プロローグPart1「それは、雨の日だった」
学校の先生は、暴力を振るわれてその仕返しをしようとする生徒に対し、かねてよりこう言う。「アイツにやり返したら、お前もあいつと同じだぞ」、「お前がアイツと同じところまで落ちてやる必要はない、だから我慢しろ」、と。
そしてまたある人は、理不尽な力に対して、憎しみで返してはいけない、と説いた。憎しみの連鎖が生まれるからだとか。だが、いづれも僕は反対だった。
やられたことの仕返しをしたとしても、それは単に弱い者虐めで振るった暴力ではないし、自分に対する理不尽な力は、その力の分だけ相手に返すべきだと考えている。そうでなければ、弱者はずっと弱者のままだ。
「おーい。なにボーッとしてんだよ。鬼にでも取り憑かれたか?」
学校の昼休み、机に肘をついて頬杖をしていた俺の額を、もしもし生きてますかーと言わんばかりに目の前の男こと、沢良宜(さわら)紳助(しんすけ)はつついてきた。
「だとしたらこの場の全員もう死んでる」
「冗談だよ」
「知ってて本気にしたんだけどねえ」
からかうために。
「はぁ。それにしても、殺人鬼(マーダー)ねえ。ある意味、戦時中より物騒な世の中だよな」
「それもこれも、今俺らがここで生活できているのでさえも、全部
まったく、生きにくい世の中だ。殺人鬼(さつじんき)などと...。はぁ。
殺人鬼、あるいはシリアルキラー。数十年前までは、殺人鬼とは性格の一端、ないしは一部の人格破綻者のこと。人を殺す事に心理的欲求を覚えるもの等々。
今となっては、バケモノの総称となってしまった。
「AMAね...。アンチ・マーダー・アンニハイレイション・ユニット。通称AMA。アマとも呼ばれる、か」
「警察も楽じゃねえよなあ。殺人鬼(マーダー)は人と見分けがつかない。食うも生きるも、人そのもの。ただ、人を殺す衝動を抑えられない者たち。それを見分けて狩り取るのが仕事だもんなあ」
「僕はそんな仕事はゴメンだ」
とまあ、コイツと話していると勝手に時間がすぎる。せっかくの休み時間を、読書の一つにもあてられない。それなりに楽しいから、まいいけど。
「おーい、稜守(いかみ)〜!」
と突然、大きな声で廊下からお呼びがかかった。その人物も、僕を呼んだ用事もわかる。どうせ、
「お金、貸してくれーーーっっ!!」
「この間も貸して、まだ返ってきてないけど」
というより、大声出すなバカ野郎。
「すまん!!この通り!!!」
「明日までなら了承しよう」
このままだと、廊下のど真ん中で土下座されてしまいそうなので、仕方なくオーケーした。
「おぉっ!サンキューな!」
忽然と現れて僕にお金を借りて去っていった彼は、八巻一歩(やまきはじめ)という隣のクラスのやつだ。去年までは、僕と同じクラスだった。
「また八巻か。お前もよく相手にするよな〜」
沢良宜のヤツが頭のうしろに手をあてて、のんびりした態度で教室から出て来た。
「アイツとはお前より知り合った時期が早いからな」
そういう問題か?と首を傾げつつも、追求はしてこない様子だった。
「八巻のおかげで沢良宜との会話も途切れたし、読書に勤しむか」
一息つき、本を広げる。目の前に活字の景色を広げた瞬間、午後イチの授業の始業ベルがなり、またもや一つ息が出る。
「あ、次は実験室か」
周りに人はいなかった。
「沢良宜のヤツ、あとで飛ばす」
ひとまず、ダッシュで実験室まで走った。
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