悪魔召喚

世忍

第1話

 S氏は両親からの遺産で金持ちだったが、幸せではなかった。

 彼は自分の容姿にコンプレックスを持ち、人気者になりたかった。


 そこで、あんちょこな考えではあるが、悪魔を召喚し願望を叶えようと思った。

 しかし、簡単には召喚方法は見つからなかった。お金の力で、人を雇いインドの寺院や巻物、ネパールの山奥、バチカンの古書などなど、悪魔と名が付く書物や伝承を調べていたが、なかなか難しく一向に見つからなかった。

 また見つかっても偽物で、悪魔は呼び出せなかった。


 そんなある日、S氏はパソコンでFXを行っていたが、ふとWeb検索はしていないなあと思った。

「最近はチャットAIがバージョンアップして回答の内容も賢くなってきたな~。ダメ元で『悪魔召喚』と質問してみよう。」

 そうすると、なんと1.『悪魔の本』、2.『悪魔召喚の方法』、3.『悪魔召喚の魔方陣』と出てきた。

「流石、最近のチャットAIは素晴らしい、何でも回答をくれる。」


(因みに『容姿のコンプレックスの解決方』と入れると『美容整形』と回答された。『人気者になる方法』と入れると『SNSでバズル』とのこと)


 そこで、1を選択すると『悪魔の本』アゾマンで6800万円、薬天で7328万円(送料込み)。

「なななんと売っているの?ほんと?アゾマンは送料無料。一応、購入しよ。」


 今度は、2を選択すると『悪魔召喚の方法』グリモアールより転記とあり、用意するもの一覧と日時や方法などが出てきた。これは、コピーして用意しよう。

「また、偽物かもしれないけど。」


 用意するもの一覧に魔方陣があったので、3を選択してみた。そうすると3種類の魔方陣が出てきた。1つ目は、下級悪魔の召喚魔方陣、2つ目は、中級悪魔の召喚魔方陣、3つ目は、上級悪魔の召喚魔方陣である。より高度な要求は、やはり上級悪魔を呼び出すことのようで、その説明も書かれていた。

「一応、3つともコピーしておいて。さて、呼び出してみますか。」


 コピーした上級悪魔召喚用の魔方陣を書き、日時、生贄なども用意できた。

 呼び出し用の呪文を唱えると魔方陣の中に一人の男?悪魔?が現れた。

「せせせい、成功した???。」


「やあ、久しぶりに召喚されたな~。呼び出したのは、あなたかな?」


「そ、そうです。あなたは悪魔ですか?」


「正しくは、魔人ですかな。悪魔って、悪い魔ですよね。」

「私は、悪くないし、良い人です。自分で言ってはなんですが。」

「魔界に住んでいるので、魔人と呼んでください。」


「それで、魔人さんの名前はあるのですか?」


「名前はありますが、人では発音できないため、魔人さんでOKです。」


「それでは、魔人さん、呼び出したのは、私の望みを叶えて欲しいのですが、よいでしょうか?」


「そのために、私を呼び出したのでしょう。何でもはできないかもしれませんが、できることであれば、望みを叶えましょう。」


「あの~、契約すると魂を取られたり、命を削られたり、何かデメリットってあります?」


「そんなのないですよ。呼び出すの大変だったでしょう。せっかく望みを叶えるのに、魂を取ったりしたら、あなたの望みを叶えられないじゃないですか。また、命を削ったら、明日死んでしまうかもしれません。まあ、削らなくても明日、事故などで死ぬかもしれませんが。ふふふ。」


「じゃあ、デメリットはないのですね。」


「契約書に何もなしと書いてもよいですよ。」


「安心しました。それでは、契約しますので、容姿端麗、認知度向上、金運向上をお願いします。」


「まあ、一般的な人の願望ですね。了解しました。魅力をアップし、知識や認知度関連をアップし、強運をアップしますので、後は自分でちょっとだけ頑張ってください。」

「それでは、アップします。せ~の、ハイ。」


「アップしました?」


「OKです。」

「明日らか、あなたは時の人になります。ちょっとだけ頑張ってください。」


「がんばります。」


「では、私を魔界に帰してください。」


「…っへ???」


「だから、契約が終わったので、帰還の魔方陣で、私を魔界に帰してください。」


「…っへ???」


「だから、早く帰して。」


「…っへ???」


「帰して。」


「帰す???自力で勝手に帰るのではないのですか?」


「何を言っているのですか。召喚したら帰還?復帰?なんだろ、とにかく帰してください。」


「帰す方法は、知りません。調べてもいませんでした。」


「あなたね、ラノベとか読んでます?勇者召喚とかされて、自分達で元の世界に帰ります。帰れないから、魔王とかを倒すんですよね。まあ、倒したら帰る方法もわからないかもしれませんが。」

「とにかく、自力では帰れないので、帰してください。呼び出されてかなり経っているので、時間がありません。早くお願いします。呼び出されて1時間が経過すると帰れなくなります。」


「帰す方法を調べるのでちょっとだけ待ってくれませんか。」


「少しくらいは待ちますが、帰れないと大変なことになりますよ。」


「大変なことは聞きたくないので、ちょっと早めに調べます。」


「あなた、魔方陣の用紙持っていたでしょう。あの紙見せてください。」


「はい、これが召喚した魔方陣の(コピーした)紙です。」


「これこれ、この下の方に439と書いてあるでしょう。このページの裏の440ページに帰るための魔方陣が書かれているのです。」

 魔人が(コピーの)紙の裏を見ると、白紙でした。当然コピー用紙のため裏は白紙です。


「…っへ???」

「裏がない???440ページはどこ???」


「それは、チャットAIが教えてくれた回答からコピーしたので、本のページを破いたものではありません。」


「…っへ???コピー???チャット???……何してくれとんのじゃ。」

「早よ帰さんかい!!!」


ピコン、ピコン、ピコン。カラータイマーのような音がなり、止まると、『帰れませんでした』と空しい声がどこからともなく聞こえてきた。


「……かかか、帰れなかった。」


「魔人さん、申し訳ありませんでした。帰れないとどうなります。こっちの世界で暮らせます。誰か知り合いとかいます?大変な事って何ですか?」


「おまえな~、ま、しょうがないか。ちょっと帰るのが遅くなるが、しかたないか。」


「なんだ、帰る方法があるんじゃないですか、よかったですね。」


「まあ、帰る方法はある。やりたくはないのだが。まず、お前の体を乗っ取り、魂をいただく。そしてその体が死ぬとき魂を燃やしてその力で魔界に帰るのだ。」


「デメリットはないと言っていたではないですか。」


「だから、帰る方法があれば、望みを叶えて直ぐにそのまま、帰ったよ。」


「そ、そうすると、私の意識や魂はこの世からなくなるのでは?」


「当然さ、そうするしか、私が帰る方法がない。」

「悪魔の本には、最後のページに小さく注意書きが書かれていて、ちゃんと『帰還の魔方陣を用意してね』って書かれているぞ。知っていると思っていたが。」


「いつも注意事項は小さく書かれているのね。」……消える意識の中でS氏はつぶやいた。


そして魔人は、これからのS氏の体で一生を容姿端麗、認知度向上、金運向上で生きていくのであった。


やっぱり、悪魔は魂を喰らうらしい。


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悪魔召喚 世忍 @bunoshiyo

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