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「ちょっとそこのあなた」
完全に僕へ向けての声だと感じたので、仕方なく足を止めて振り返った。廊下の数メートル先から、この学校では珍しくスーツをきっちりと着込んだ女性教師が姿勢よく近付いてきた。確か産休で休んでいる教師の代わりにやって来た人だったはずだ。
「あなた、その髪の色は何?髪染めは禁止だって校則にあるの知ってるわよね?」
「これ、地毛です」
僕は教師の言葉に、もう何度目かもわからない台詞を返した。
「その明るさで地毛なものですか。明日までに染めて来なさい」
「本当に地毛なんですけど。なんなら持って帰って調べてもらっても構いません。それとも僕が生まれた時の写真を持ってきましょうか」
ムッとしてそう言い返すと、教師の眉がつり上がった。無表情無抑揚で言い切る僕の態度が、普通に言われるよりも癇に障ったのだろう。
「そこまで言うのなら、あなたの担任に話を聞いておきましょう。クラスはどこ?」
「……二組です」
その教師は僕の答えを聞くと、鼻をツンと高くして近くの教室に入って行った。その瞬間授業開始のチャイムが鳴る。僕は彼女の高慢な態度を腹立たしく思いながら、自分の教室を目指した。
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