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何の気無しに姉の部屋のドアを開けてみた。姉の部屋は僕の部屋の先にあり、そうしようと思わない限り姉の部屋に近付くなど無いことだった。

姉の部屋はあらゆる物に埃が積もっていたが、それらは姉が出て行った当時と全く同じ場所に置かれていた。いや、僕は思い直す。それは僕に判断できることではない。何せ僕はもう十年近くこの部屋に立ち入ってはいないのだから。

姉の部屋のカーテンが半分開いていた。窓からオレンジ色の光が射し込んでいる。カーテンを開けっ放しで出て行くなんて、姉はやはりずぼらだ。とはいえ僕も、この家を出て行くとなったらカーテンなんか閉めないし片付けだってしないだろう。

僕はきっと逃げるようにこの家を出るはずだ。

姉の部屋のドアを静かに閉めた。静まり返った空間に、パタンという音がこだまする。一歩も足を踏み入れていない姉の部屋に、僕の痕跡など何ひとつなかった。



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