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僕はベランダの洗濯物を洗濯カゴに放り込むと、その洗濯カゴをさらに自分の部屋に放り込んだ。あらかじめより分けておいたワイシャツを持って階下へ向かう。

リビングでアイロンのプラグをコンセントに差し込み、スイッチを入れる。部屋の隅に出しっぱなしになっていたアイロン台を引っ張り出してきて、その上にワイシャツを広げた。

洗濯物はほとんど出ないので週に一回、夜のうちに洗濯機を回し、翌日の朝回収すれは十分だ。学生である僕には制服という便利な衣類があるので、必然的に洗う物も減る。

洗濯は中学生の頃からやっているが、未だに正しい洗濯機の使い方がわからない。ただ洗濯物をぶち込み、蛇口を捻り洗剤を入れスイッチを押すだけだ。洗濯方法が表示されているあのタグは、僕にはファンタジー世界の言語で書かれた魔術書に見える。

一度きちんと検索すべきだとは思うのだが、それを後回しにするうちに僕は高校三年生になってしまった。だが今の方法で一応は洗濯できているのだから、今後僕が正しい洗濯の仕方を検索することは無いだろう。

アイロンの使い方も右に同じである。中学の時の家庭科の授業で習ったような気もするが、そんなものはその日のうちに忘れてしまっていた。だがワイシャツのシワは一応は延びているのだから、これもこれでいいことにしている。

僕はアイロンをかけたばかりのワイシャツを自室の椅子の背に引っかけ、時刻を確認し鞄を手に取る。ちょうどいい時間だ。仕事へ向かうことにする。

開けっ放しのリビングのドアの隙間から、ソファーに放り出されたままの父の背広が目に入った。どうやら父は近くのコインランドリーで自身の服を洗濯しているらしい。たしかにそれなら洗濯表示やアイロンのかけかたに迷わなくて済むのかもしれないが、洗濯機の前でぼーっと時間を無駄にするなんて僕はごめんである。そんな時間を過ごす暇があったら、少しでも仕事を進めるべきなのだ。




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