28
昼休み、弁当を食べ、残りの時間でトイレを済まそうと廊下を歩いていた時、去年の担任に呼び止められた。ちょうど階段を上がってきたところで僕に声をかけた教師を、振り返って見上げる。
「結局就職クラスにしたんだな。瀬川の成績ならいい大学に入れるのに、本当に良かったのか?」
「はい」
僕は内心で「またか」とため息をついた。この教師は、去年の進路希望提出の時からしつこく進学クラスにしろと言ってきているのだ。第一、僕は去年も就職クラスだったのに、ここで突然変えるなんてことはしない。
「聞けば、瀬川は城ヶ崎中学の出身だったんだって?すごい名門じゃないか」
「はあ……」
「何でうちなんかに来たんだ?城ヶ崎高校なら家もそんなに遠くないだろう」
「勉強についていけなくなったので」
僕は「城ヶ崎高校」という単語が出た場合の、あらかじめ用意しておいた答えを口にした。こう言えばたいていの人はもう何も言ってこないのを知っている。
「そうかぁ、あそこは大変なんだろうなぁ、お金もかかるし」
「はあ……」
僕はポケットからスマホを取り出し、わざとらしく時刻を確かめた。現在昼休み終了五分前。
「ああ、引き止めて悪かったな。また気が変わったら言ってくれ」
教師は笑顔を一つ置いて隣の教室に入って行った。おそらく僕の気が変わることはないので、もうこの話はしないでほしいところだ。
僕はスマホをしまうと、ようやくトイレに向けて歩き出した。
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