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「久しぶりだな瀬川君。今から店に向かうところか?」
学校が終わり店までの道を歩いていたら、前から白虎店の店長が歩いて来て声をかけられた。僕はそれにまず挨拶を返し、次に肯定の言葉を口にした。
「俺も今朱雀店に行ってきたところなんだよ」
「そうですか。店長いました?」
でしょうね、という言葉は飲み込む。この人の頭の中はおそらく、一割は仕事のことで、残りの九割は店長のことで出来ているだろう。
「ああ。この時間に行くと高確率でいることが最近わかったんだ。君も荒木さんも学生だからね、やはり夕方になる前に行った方がいいのだろう」
「そうみたいですね」
「やはり兄弟とはいいものだな。そういえば瀬川君も弟さんがいるだろう。仲良くしているのか?」
「弟とはあまり口を利く機会がないので」
僕は弟の顔を思い出し、すぐに打ち消した。僕は弟の表情を、笑っている顔しか知らない。その現実を直視しようとしない空想主義者に少しいらついた。
「たまには電話くらいしたらいい。弟の声を聞くと元気が出るぞ」
それはあなたの場合だけでしょう、という言葉はまたしても飲み込み、代わりに「そうすることにします」という思ってもいない返事をした。第一、実の弟に着信拒否されている人が電話を勧めないでほしい。
「じゃあ俺はこれで。次の仕事があるからそろそろ帰らなければならない」
白虎店の店長は腕時計で時刻を確認すると駅の方へ去って行った。僕はその背中を見送ってため息をつく。ブラザーコンプレックスの人とはできれば話をしたくないものだ。
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