21
外階段を上がり、白虎店のドアを開けると、鳥山さんが藍本さんの腕をひっぱたいた所だった。藍本さんは「あ」という表情を、鳥山さんは驚いた顔をこちらに向ける。
「あ、あれ?瀬川君、今日来る日だっけ!?」
「いらっしゃい瀬川君。店長すぐ帰ってくるからその辺で待っててくれるかな?」
僕は藍本さんに小さく頭を下げると、店内を見回した。今日の夕方行くと昨日のうちに伝えておいたはずだが、少し早く来過ぎただろうか。まぁ、店長だから忙しいのだろう、仕方がないので少し待つことにする。
「あ、瀬川君、今日はどうしたの?」
藍本さんはお茶を淹れに行ったが、鳥山さんはまだここにいて僕に話しかけて来た。肩にスクール鞄をかけているところを見ると、どうやら今来たところなのだろう。
「うちの常連客の依頼が白虎店の範囲内での仕事になりそうだから報告に」
「あっ、昨日のやつよね。見たわ、確か工場の機械に細工する依頼よね。えっとその工場は……」
「九代製紙工場だよ。機械にエラーが出るようにすればいいだけらしいけど」
その時、背後のドアが開いて白虎店の店長が入って来た。相変わらず全身黒のかっちりしたスーツだが、暑くはないのだろうか。
「ああ、瀬川君。すまない、待たせてしまったようだね」
白虎店の店長は申し訳なさそうな顔をした。僕は彼に軽く頭を下げて挨拶をする。
案内されて会議室に入ると、すぐに藍本さんがコーヒーを持ってきた。前置き無しに本題に入り、昨日来た依頼を白虎店の店長に説明する。おそらく昨日の報告書ですでに内容は知っていただろうが、彼は律儀に相槌を打ってくれた。
話は三、四十分で終わり、僕は椅子から立ち上がった。今回の依頼、そのまま白虎店に押し付けることが出来てよかった。面倒臭い仕事はなるべく避けたいから。
会議室を出ると、まだ鳥山さんがその辺をうろうろしていた。彼女は暇なのだろうか。帰ろうとドアに向かうと、鳥山さんは控えめに手を振った。僕はそれに無表情で会釈を返す。彼女は暇なのだろうか。
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