3
「おいおいおいおい、ちょっと待ちなよ瀬川君」
放課後、下駄箱に向かおうと廊下を歩いていたところ、肩にかけた鞄の紐を捕まれて振り返る。僕を呼び止めたのはショートカットの女子生徒だった。確かクラスメイトの一人……だった気がする。
「あんた図書委員でしょ?何帰ろうとしてんの」
彼女は僕の鞄を掴んだまま少し強めの口調で言う。そう言われて思い返してみると、新学年になってすぐのホームルームで自分が図書委員に決まった時の記憶が甦ってきた。面倒なことは早めに終わらせようと上半期の役員に立候補したのである。
だが三年生が始まって早二ヶ月、そんなことなどすっかり忘れていた。始めの役員集会以来集まることもなかったのでそれも当然だ。とりあえず、僕は自分が図書委員だと認める返事をした。
「瀬川君今週いっぱい図書室の受付の仕事だよ。昨日来なかったって果保が怒ってたんだから」
そのカホというのが誰かはわからないが、おそらくその人も図書委員なのだろう。
「そんな話聞いてないんだけど……」
「そりゃだって、あんた先月の役員集会サボったじゃない。確かに誰も伝えなかったのもちょっとは悪いけどさ……」
二度目の役員集会なんていつあったのだろう。おそらく放課後に行われたのだろうが、僕は帰りのホームルームが終わると真っ直ぐバイトへ向かうのでそれに参加しなかったのだ。
「わかった、今から図書室に行くことにする」
「果保が怒ってるかもしれないから、早めにね」
しかたなく役員の仕事に行く意思を表すと、彼女はようやく鞄から手を離した。そのまま短い別れの言葉を告げると下駄箱の方へ去ってゆく。僕はその反対側の、図書室がある方の廊下へ視線を向けた。
ポケットからケータイを取り出す。その受付での本の貸し出しの仕事というのは、どのくらいやっていればいいのだろうか。なるべく早くバイトへ向かいたい。
僕は店長宛に委員会でバイトに遅れる旨のメッセージを作成しながら、図書室への廊下をゆっくりと歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます