いつかのSF

高柳孝吉

いつかのSF

 俺は、図書館で村上春樹の小説を手に取った。横にいた友人が、おもむろにこう言った。

「古典を読まなきゃ駄目だな」

俺は、反論する事無く

「まったくだな」

と村上春樹の本の"すぐ横"に並んでいたシェイクスピア全集を手で滑り出した。

「こういった古典を読まなきゃな」

村上春樹の本を戻す事はしないまま。そして、図書館司書のところにその2冊を持っていった。司書は、

「古典がお好きなんですね」

と可愛い八重歯が覗く笑顔を見せて言った。

「はい」

「シェイクスピアだなんて」

「作家の友人も、古典を読んだ方がいい、と言うものでね」

俺はちょっと照れ笑いを見せて言った。

「こういったシェイクスピアや村上春樹等の古典をね」

「古典ならあたし、カズオ・イシグロや紫式部あたりのあの時代の物が好きですね」

俺は少し遠いところを見るような目をして呟いた。

「僕は、ワープ航法やエイリアンとの遭遇等を描いた作品も好きなんです」

「まあ」

彼女は少し驚いたように言った。

「あたしも実はそういった当世流行りの作品も好きです」

「そうですか」

俺は言って図書館を出ようとした。そして、振り向きざまにこう付け加えるように言った。

「この間読んだワープ航法による外宇宙探索物は面白かったですよ。古典も確かにいいですが、そういった純文学、現代文学も今の僕らの同じ時代を生きている者にはいいもんです。そういった海王星近代文学もね」

そして、作家の友人を見て言った。

「こやつみたいなAIの遥かなる末裔が書いた文学も」

友人は、恥じらいも見せず犬歯は見せて、

「俺はお前みたいなタイプのロボットとエイリアンとの普通の恋愛物だけでなくてSFも書くぞ」

「さっき古典を読めって言ったばかりなのに」

「あくまで俺達の文学は人間の書いた文学から刺激を受けてこそだ、かつて繁栄した人間の遺した古典文学からな」

 俺は、友人を即してかつて人間が使った言葉で言えばレトロな遺物として人気の高い図書館を出ると二人して宙に舞い上がり木星の衛星エウロパにある自宅に向かって姿を消し海王星の星立図書館をあとにした。




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