心臓を喰らう

半チャーハン

プロローグ 神と悪魔

「あなたは神を信じますか?」


「いいえ」


 予想通りの答え。さすが日本。


 目の前の少年は、無表情で、しかし目だけは胡散臭そうに私を見下ろす。


「それでは、悪魔を信じますか?」


「いいえ」


 扉がバタンと閉められた。その勢いで巻き起こった風が髪を揺らす。話を遮られるの、今までで一番早かったかもしれない。


 しかし、ここで引き下がる私ではない。するりと、たった今閉まってしまった扉をすり抜ける。


「ならば、信じさせてあげます」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 私は悪魔である。


 正真正銘の、人間のことが大嫌いな悪魔。


 神によって創られた、人間どもを騙すためのはりぼてみたいな存在。


「もっと美しくなりたい」


 神はおっしゃった。宇宙から人間まで全部作った創造神である。その方は誰にも真の名を明かさない。仮初めの名を、テールと名乗っていらっしゃる。


 大聖堂に集められた天使たちが、皆テール様に頭を垂れていた。


「美を際立たせるためには、醜さが必要だ

 善を引き立たせるためには、悪が必要だ」


 テール様は聖なる微笑を浮かべなさった。


「その命をお前たちに授ける。お前たちには、究極の悪になってもらう」


「テール様の仰せのままに」


「世界中に悪を広めろ。私と敵対するんだ。そして最後には私に討たれ、消えてなくなれ。それがお前たちの使命だ」


「かしこまりました」


 テール様が玉座の上で指をパチリと鳴らす。周りの天使たちの羽が付け根から黒く染まっていく。それに合わせて、だんだんと頭の上の光の輪が消え、羊のようなゴツゴツしたツノが生えてきた。感覚はないけど、私もそうなっているんだろう。


 そっと目を瞑ると、召集されるまでの出来事がありありと思い浮かんだ。


 今まで、人間の魂をテール様のもとへ運ぶ仕事をしていたこと。結構やりがいがあったな、とか。テール様に褒められて嬉しかったな、とか。


 ああ、思い出が崩れていく。私から、追い出されていく。


「散れ。悪魔の存在を広めろ」


 その日、私は悪魔になった。

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