保健室の雪女
星来 香文子
プロローグ
プロローグ
「好きです! 自分と結婚してください!!」
転入手続きの為、母親と初めて学校に来た時の事だ。
声が聞こえた方を見ると、多くの生徒が見つめる中、中央階段の前でラガーマンみたいなマッチョが、片膝を突き、真っ赤な薔薇の花束を捧げている。
求婚されている女性の方は白衣を着た腰まである長い髪で、遠巻きに見てもわかるくらい、とても美しい人だった。
「お願いしま————」
「結構です」
そして、とても冷たい人だった。
たった一言で短く断り、さっさと階段を降りていく。
マッチョはあっさり振られ、生徒たちの笑い者になっていた。
「あぁ、またやってるよ山本先生」
「あの雪女がOKするわけないじゃん」
振られたのは山本先生で、あの美しい人は雪女と呼ばれていた。
白衣を着ているから、おそらく、理科教師だろう。
雪女と呼ばれているのは、生徒たちの会話から察するに、何人もの男性から求愛され、すべて冷たくあしらっているからのようだ。
山本先生は泣いていた。
でも……
「絶対諦めませんよ! 自分は!」
花束を持ったまま、そう誓っていた。
頑張れ先生。
とりあえず、なんだか可哀想だったので、心の中でそっと応援した。
この数年後に、自分が山本先生と同じ事をするなんて、思わずに————
さて、これから俺が話すのは、生徒から雪女と呼ばれていた妻との出会いの物語。
というか、初めて殺人事件というものに遭遇した高二の夏の話だ。
平成の中頃。
まだ今みたいにスマホが普及していなかった、あの頃の夏の話だ。
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