第35話 見よ、『雷鳴』の力を!

 だいたい、こういう場面では、カリスが敵ボスの攻撃にぶっ倒れているところだ。しかし、五体満足どころか無傷という最強ぶり。鍛えすぎちゃったね。


「みなさまの、特にダテ殿のおかげです。我が騎士たちを『指導』いたしまして、どうにか魔物たちを追い払えましたぞ」


 そっか。カリスはちゃんと『指導』をものにしていたんだ。


「あの、ダテ殿。カリス殿のいう、指導とは?」


 事情を知らないゴットフリートに、マージョリーたんが解説をする。


 私はこういう事態が起きることを想定して、兵士たちに説明をして「回復の杖」によるパワーアップ方法を試してもらったのだ。


 半信半疑だった兵士たちも、私たちが行った指導法を見て、考えを改めている。


 先の戦闘で、回復の杖は大量にあった。これはいい機会だからと、【治癒からの学び】の書をおしげもなく無名の騎士たちに差し出す。回復によるレベリングのために。


「そんな非常識な育成方法が、あるのですな?」


 システムの穴を突いた、とんでもない作戦だと思う。


『そこまでしないと、城を守れないと思ったんだよ』 


 移動が多い私たちでは、どうしても防衛戦などでは不利だ。強い兵隊は、たくさん欲しかった。本当は、ネームドの我々の仕事なんだけど。


 まあ、信じられないよなと。


 まっとうな方法で強くなったのが、最前線で戦っているだけに。


「オラオラ、次に斬られたい奴らはどいつだ?」


 シノさんの【テレポート】技術によって、縦横無尽にビリーが戦場を駆け巡る。

 周囲のザコを片付けつつ、シノさんはテレポートによる仲間の援護を忘れない。

 司令官の眼前に、ビリーが現れた。


 さすがにボスクラスともなると、ビリーの大道芸に顔色ひとつ変えない。冷静にカウンターを狙う。相手の虚を突いて、大火力魔法を放つ。並の相手なら、確実に仕留められていたはずだ。ビリーでなければ。


「どけよ、バケモノ! 【ハイパー・オーラ・スラッシュ】!」


 ビリーの剣が、閃光を放つ。稲妻より速い攻撃は、大魔法ごと敵を両断する。


 大ボスクラスでさえ、彼の一撃に沈んだ。


「これが、本来の『雷鳴』の戦い方なんですね?」


『まだまだ。こんなもんじゃないから』


 感心するイーデンちゃんに、私は追い打ちをかける。

 対角線上にいた敵ボスは、ゴドウィンが引き受けた。

 彼もシールド持ちだが、ゴドウィンの盾はバックラーである。つまり、受け流すための防具だ。


「ふん。はっ」


 ゴドウィンは敵たちの射撃や魔法攻撃など、見もしないで避けまくる。


「何だあの野郎? 体中に目がついているのか!?」


 アークデーモン級の敵大将が、ゴドウィンに味方を屠られて焦っていた。


 板金付きレザーアーマーという、騎士らしからぬ兵装をゴドウィンは愛用している。騎士としてのカンもあるが、極限まで削り取った軽装備のおかげで、敵の動きを敏感に察知できるのだ。


 また、彼はただの騎士ではない。


 敵の大将と戦い、ゴドウィンは武器と盾を手放す。


 勝利を確信したデーモンが、痛恨の拳をゴドウィンに叩き込もうとした。


 シノさんがテレポートを詠唱しようとしたのを、ゴドウィンは止める。自分で解決するつもりだ。


「いけ、【スペクトラル・エッジ】!」


 魔法でできたショートソードを、ゴドウィンは放出する。

 スペクトラル・エッジが、デーモンの拳をすり抜け、相手のノドに突き刺さった。

 複数いたデーモン級の魔物も、スペクトラル・エッジの餌食に。


 雷鳴のリーダー、ゴドウィンは、魔法剣士なのである。


「退け、増援だ!」


 ゴドウィンが何かを察知して、兵たちに退散を命じた。


「なにを言っていますか! このまま敵の勢力を殲滅いたしましょうぞ!」


 だが、気をよくしている兵たちの耳には届かない。


 勢いよく前進した兵士を、緑色の触腕が襲った。


 先行した兵隊たちが、盛大に吹っ飛んでいく。シノさんが浮遊魔法で受け止めてくれなかったら、地面に衝突していた。


「大物が来た」


 シノさんが、最大級の警戒をする。


「ふわあ。ダッル」


 あくびを噛み殺しながら、ゴーマ三姉妹の三女フィゼが姿を表した。

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