第44話 後始末は誰がする?


「なに考えてんだ、このアホが!」

 人気のない屋上に両介の声が轟く。どれほど大きな鳴き声なのだろうか。校舎中に響いているかもしれない。

「ぎゃあぎゃあ騒ぐな。やっちまったもんは仕方ねぇだろ」

 怒鳴られている本人は意に介していない。呑気に弁当を食べている。

「どうりで姿を見なかったわけだよ。そんなことをしてたなんて」

 どうやら色々と疲れが溜まっていたらしく、寝た時の記憶がほとんど残っていない。

「これがキッカケで距離が縮まるかもよ。キューピッドってやつだな」

 シャリアはロープで肉体を縛っていたが意味がなかった。多分本人も無駄だとわかっていただろう。両介の目から解き放たれ、ガデスは気ままに楽しんだようだ。こんな事態になるとは思わなかったが。

「よくそんなこと言えるね。絶対脳みそ腐ってるだろ。医者に診てもらいなよ」

「誰が行くか。病院なんて場所は盗みに入る以外で近づく気がしねぇよ」

 何がどう転んでそんなことになるのか。どうかしているとしか思えないが、だからこそ宇宙に名を広める大泥棒になったのだ。


「未可子はまだ登校してないようだよ。今日はこのまま欠席するんじゃないかな」

 雅樹が弁当を持って屋上にやってくる。ガデスとの会話の中から何かあったことを察したらしく、どうやら教室を見にいってくれたようだ。両介に落ち度はないが合わせる顔がなく、彼女に近寄ることができなかった。

「君の周りは問題ばかりだね。毎日飽きずによくやるものだ」

 今や全校生徒の注目の的であり、学校一の有名人と言っても過言ではない。普段はもう少し賑わっている屋上もガデスがきた途端に、雲を散らすように退散してしまった。明らかにヤバい奴を見る目をしていた。人がいないおかげで堂々と姿を出せるのは怪我の功名だが。

「病気になった。劇団のオーディションを受ける練習。怪しいクスリをやっている。悪霊にとり憑かれた。挙がっている噂はこんなところだね」

 何より恐ろしいのは日によって性格が違うことだ。中身が別人だから当然だが、周囲からすれば意味がわからないだろう。優等生と不良で極端すぎるのがよりおかしい。


「お前さんは気にしないのかい?」

 両介も気になっているところだった。雅樹はほとんど変わらないで接している。

「客商売が長いからね。色んな人間を見てれば、割と受け入れられるものだよ」

 ちょっと達観しすぎに思えた。変わらない友人に呆れてしまう。

「どんな理由があるか知らないけど、俺には解決策を導き出せる気がしないからね。だったら騒いでも仕方ないさ」

 チラリと両介に視線を送ってくる。おかしくなった日に現れるようになった猫だ。真相はわからなくても何かが起きていることは理解している。それを踏まえたうえで適切な距離感で接しているのだ。

「たいしたもんだ。自分の店を開くならいつでも言いな。いくらでも援助してやるよ。ビルでも城でもぶっ建ててやるさ」

 ガデスなら本気でやる。どれだけの大金だろうがポンと出すだろう。当然盗んだ金だが足など一切付かせない。金銭的な執着は薄く、気分次第で金をばら撒く男だ。一部で義賊と呼ばれる所以はここにある。

「遠慮させてもらうよ。先のことはわからないが、もう少し今の店で働くつもりさ」

 どんな喫茶店になるのか。きっと雅樹なら良い店を作るだろう。

「俺よりも未可子に弁明した方がいいと思うがね。随分と戸惑っていると思うよ」

「落ち込むようなタマじゃねぇだろ。花よりも剣を握るような女だ。これぐらいショックを与えた方が少しは女らしくなるんじゃねぇの」

「また好き勝手なこと言ってる。未可子の耳に入っても知らないよ」

「文句あるなら矢でも鉄砲でも持ってこいや。軽く捻ってやるよ」

 がははと大きく口を開いて笑い出す。本人は悪びれていないのだから質が悪い。未可子が不憫で仕方なかった。ガデスはもっと痛い目に遭ってもいいと思えた。

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