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ラジオの音が鳴っていた。
『ナッシング・ヘヴンに聞いたって? それがどうしてこんなことになっちまったんだ。いや、そんなはずはない。まだやりきっていないだけさ。あんたは運がいい、おれが保証する。さぁ話を続けよう』
女性DJによるトーク番組のようだが、意味がわからないやり取りだった。
女の子が身体を起こすと、小さなガレージの中でなにかを直している男の姿があった。
「あ、目を覚ましたかい?」と男は言った。そして唐突に笑い出した。「いや、ごめん。スレンダースカイのおあいにく様ってラジオなんだけど、どの話も傑作でね」
流れ続けている饒舌な話を聞き、男はまた吹き出した。
「ごめんごめん。でも無事に目を覚ましてよかった。おれはツゲン。この街でロボット修理士をしている。君は?」
「……レーカ」
「レーカか。いい名前だ。でも、君は何者なんだい?」
問いかけられてレーカはなにかを言おうとしたけれど、ふと、自分がなにを言えばいいのか思い出せなくなった。
「……わからない」辛うじて絞り出せた言葉がそれだった。
「わからない?」
「覚えて……ないかも。記憶が、ないみたいで」
「あぁ。そういうことか」ツゲンは明るく応じた。「スレンダースカイも言っていたよ。なにか強い衝撃を受けたり、一時的にショッキングなことが起こったりすると、人は記憶をなくすことがあるらしい」
そう言うと、ツゲンは手に持っていたレンチでなにかの作業を再開させる。レーカが立ちあがると、彼は「大丈夫?」と優しく声をかけたが、過剰に心配している様子はなかった。
「ここは……知らない街」レーカは開け放たれたガレージから外に出て陽の光を浴びた。「どうして私はここにいるの?」
「ここは砂の街だ。荒れ地の先の山岳地帯で、突然、尖塔が現れた。そしてその中から君が現れたんだ」
ズキンと頭が痛み、レーカは思わず顔をしかめた。
「傷だらけの姿で、服もボロボロでね」とツゲンは続ける。
見れば手足は絆創膏や包帯で処置され、綺麗で清潔な布の服を着ていた。
「清拭と着替えをさせてもらった。気を悪くしないでくれよ。変な所は触ってないからさ」特に悪気がある風もなく、軽い口調でツゲンが言う。「さすがに下着は変えてないけどね。今日中にマーケットに行って必要なものを仕入れよう。大丈夫、クレジットは足りてるよ」
「あの、えっと」と、レーカはツゲンに向き直ってペコリと一礼した。「親切にしてくださって、ありがとうございます」
「気にしなくていいさ。きっと君の短期記憶障害は一時的なものだ。思い出すまで、君さえよければこの家に居てもらって構わない」
「はい。えっと、そうさせてもらいます。ありがとうございます」
「どういたしまして」
ニコッと笑うツゲン。レーカはその笑顔をみて少しだけホッとした。
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