病んでる彼女と異世界でバディを組んで探偵をすることになった件
MERO
第1章 聖女と俺のバディの始まり
第1話 廃ビルの窓から落ちた先
「おい、やめろ!」
俺は叫んで咄嗟に5階のビルの窓に足をかけて飛び降りようとしたセーラー服の女の子の手を取った。窓の外側に力はかかっており、俺はバランスをうまく取れず、そのまま前に向かって転びそうになった途端、ぐるぐると目が回って気を失った。
**
次に目を覚ました時、俺は木でできた簡易なベッドに寝てた。
「……いてて、ここ、どこ?」
俺はベッドから起き上がろうとした所、視線の右側の何かが動いた。
右側で椅子に人が座っていたようでその人が突然、立ち上がったのだ。
「おぉ、聖女のお付きが目を覚ましたぞ」
その男は意味不明なことを言って、部屋を出ていった。
誰もいなくなった部屋で俺は周りを見渡した。
この部屋にはベッド以外に、ベッドサイドにある小さなテーブル、そして横に椅子があるのみで、窓すらない部屋だ。
ここは一体どこなんだ?
俺はそもそも廃ビルの5階の立ち入り禁止場所にいたはずなのに。……
あの時、確かセーラー服の女の子が窓から飛び降りようとしていて、俺は咄嗟に手を取って……そのまま態勢を崩して……落ちたような気がするが、身体には痛みもなく、傷はないようだった。
洋服はTシャツとジーパンではなく、灰色の無地の上下が分かれている病院の患者みたいな服装に変わっていた。
その時、部屋をトントンとノックする音が聞こえた。
「客人、部屋に入ってよろしいかな?」
そう、扉の外から落ち着いた低い声が聴こえた。
ここはどこで、自分はいったいどういう状況なのか、わからないまま、ここにいるわけにはいかない。この声の主は何か知っているのかもしれない。
そう思い、俺は渋々であるが「……どうぞ」と言った。
扉がギィィと開いた。
真っ黒なローブをまとった白髪の老人が杖をつきながらゆっくりと部屋に入ってきた。俺の顔をみるなり、軽く会釈をしたので俺も釣られて返した。
老人は唯一ある椅子に腰を下ろした。
俺はベッドから上半身を起こした状態で膝を立てた状態で相手の方向を向いた。
「初めまして、私はこの集落の長だ。私たちは君たちを長い間、探していた。この日が来たことに感謝を述べる。聖女と聖女を守る者よ」
"聖女と聖女を守る者"?
なんだそれ?
俺は困惑した。
その感情が顔に出ていたのか、この集落の長だという老人が言う。
「驚かせてすまない。君たちが違う世界から、何も知らずにここへ来たことは知っている」
そう告げた。
違う世界?
どういうことだ?
「……それでさっきの聖女云々とは……?」
俺は気になっていた言葉を声を出して聞いた。
「この世界に古くから伝わる話がある。」
「この世界が暗闇に覆われる時、神は1つだけ希望としてこの世界にとって薬にも毒にもなる存在を呼び出すだろう。その存在は二人いる、異世界からきた聖女とその聖女を守る者である、と」
老人はゆっくりと、淡々と、感情を含まず、まるで教科書でも読んでいるように言った。
「俺はその……」
「おそらくは聖女を守る者だろうと思っている」
老人は俺の目を見て言った。
……聖女って、誰のことだ?
俺は身に覚えないのないその存在について、疑問に思った。
「……ある場所に同じタイミングでいた者がもう一人おる」
「?」
俺の反応に、老人は少し悲しい表情をしたと思ったら、くっくっくと手を顔に当てて笑い出した。
「聖女と同じ反応をしよる……どうも神はこの世界に試練ばかり与えたがるようだ……」
ある場所に同じタイミング……。
老人は笑いを止めて、俺に聞く。
「さて、どうだろう。……君は元の場所に帰りたいと願うか?」
元の場所?
それは俺が認識している元の世界を指しているんだろうか?
「……可能であれば帰りたいです」
「そうか……聖女とは違う答えだな」
……その聖女とは違う?
聖女は帰りたくないとでも言うのか?
俺の中で疑問がよぎった。
「おそらく我々は君たちを元の世界に戻す方法を知っている。あの古文書の通りであれば……古文書の通りに君たちはやってきたのだから。……それはおいおい話すこととしよう。まず君は聖女と顔をあわせて、我々と聖女の橋渡しになってほしい、どうだろう、悪い話だろうかな」
「聖女との橋渡し?」
「そうだ、聖女は我々との一切のやりとりを拒否している」
そういうことか……。
一筋縄ではいかない相手ということか……。
俺はあの廃ビルに行ったことを後悔した。
昨日の忘れ物を取りに行っただけだというのに……。
俺は元の世界に帰れるかどうかの選択肢に関わらず、それしかやる道はないんだろうな、と状況を把握した。
「わかりました。じゃあ、えっ……と、とりあえずその聖女とやらの所に案内してもらえますか?」
まさか噂の聖女と話すまでにこんなに苦戦するなんて、この瞬間は何も思っていなかった俺を殴ってやりたい。
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