第6話
近くの公園にて。
「はあ、はあ、はあっ」
彼女はベンチに腰を置いて肩で息をしていた。
「あそこは、あなたみたいな学生が来るところではないですよ?」
俺は彼女にそう告げる。
いやあ、萩野悠成だってバレてないといいんだけどね。
「……どうでもいいでしょ、あなたには」
まあ、確かに。
助けたのもクラスメートだったってわけで、別に彼女のことはどうでもいい。彼女はいじめられているのを笑って見ているだけだから、恨みもそこまではない。
「そうですね。余計なことをしました、では」
俺は彼女の傍を離れてライブハウスに戻る。
「……ぐすっ」
後ろから涙を啜る音が聞こえた。
俺は思わず立ち止まってしまう。
だあああああっ!!
「話してみて?」
くそっ、鈴鹿を思い出してしまって無視できなかった。
「……どうして、?」
面倒臭い!
「いいから、話して!楽になるから!」
たぶん!!
彼女は必死な俺に気圧されておずおずと話し始めた。
「翔琉……私の彼氏が栞ちゃ……他に好きな人ができたみたいで、別れようって言われたの」
翔琉……?誰?それに、栞に惚れた?
「それで、ショックで落ち込んでいたら友達があのライブハウスを紹介してくれて……それで、ナンパされて、もういいかなって」
彼女はそれで言葉を止めた。
「そっか。それは残念だったね」
俺の口からはそんな軽薄な言葉しか出なかった。
「……あなたに何が分かるの」
それは、彼女にも伝わり非難される。
「何も分からない」
「……話した私がバカだった。それじゃあ」
彼女はベンチから立ち上がり公園を去ろうとする。
「悔しくない?」
「……そんなに」
彼女は俺の問いに対し足を止めずに答える。
嘘だろ。だったら、泣きはしないはず。
「悔しいんだったら、翔琉だっけ?そいつよりもいい人見つけて、ざまあみろって言ってみたら?たぶん、そいつと栞は結ばれないでしょ?そしたら、昔捨てた可愛い君からそんなこと言われて相当なショックを受けると思うんだ」
彼女が立ち止まる。そして、こっちを振り返る。
彼女は目を丸くして俺を見る。
「良い案でしょ?」
「っ!」
まあ、上手く行くかは分からないけど。
「……ありがとうございます。少し楽になりました」
今日初めて彼女が笑顔を見せる。
とても穏やかな笑顔だった。
「そう。あのライブハウスには来ないようにね」
「……それは約束できません」
何でだよ。楽になったんじゃないのかよ。もう助けないからな。
「……最後に。あなたの名前を教えてください」
うえ。それは無理だあ。だって同じクラスだってバレるじゃん。
「……ユウ」
「ゆうさんですね。それじゃあ、さようなら」
彼女は今度こそ公園を去って帰っていった。
「名前聞いてどうすんだよ」
少しベンチに座って星空を眺めた後、ライブハウスに戻った。
その後、コウさんにめちゃくちゃ事情聴取された。
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