第21話

 キーファウス殿下たちとの緊急ミーティングも終わり、私はベッドに倒れ込んで泥のように眠りました。


「づがれた……」


 給金を下げてもらう交渉は疲れました。

 あまりやりすぎれば国の名誉を傷つけかねないし、もらいすぎても後が困るし……。

 そもそも、メビルス王国の人たちは私のことを過大評価しすぎている気がするのです。

 ここ最近調子が絶好調のようだし、毎朝の祈りではほとんど疲労すら感じない……。

 むしろ今日の交渉のほうが疲れましたね。


「お金なんて必要な分だけあれば良いのになぁ……」


 前世でお金がどんどん貯まっていきウハウハになっていたときのことを思い出しました。

 欲しいものをいっぱい買いに出かけたいのに、休みが永久にやってこない。

 ようやく休みになったとしても、毎日の過労で起きれず夜を迎えてしまう……。

 そして翌日からまた二十連勤なんてあたりまえでした。

 こうしてお金は増えていくのに好きなことができず、気がついたらそのまま過労死。


 メビルス王国では時間もお金も十分すぎるほどあるので、今度こそ人生を満喫したい!

 ただしこの国は財政面で崩壊寸前のようなので、国家破綻しないようにキーファウス殿下を全力で応援するつもりです。


 気がついたら意識をベッドに預けていました。


 ♦︎


「うぅぅぅうん?」

「気がついたかね?」

「ん……? んんんんんんっ!?」


 見たことのある空間です。

 直前の行動を思い返したら、嫌な予感しかしませんでした。


「まさかの疲労死!?」

「んなわけないじゃろ……。ワシがキミのユメの中に入っておるのだよ」

「そんなこともできるんですね。お久しぶりです」


 どうやら私のユメの中に神様が入り込んでいるそうです。

 夢枕みたいなものでしょうか。


「ずいぶんと謙虚な生活をしているようじゃの」

「いえ、謙虚というよりも、みなさんが讃えすぎなだけかなと……」

「ふぉっふぉっふぉっ! 本来はブブルル王国でもそうなるべきほどの人材だったのじゃよ。メビルス王国ではようやく評価されるようになったようだの」

「あまり自覚はありませんが……」

「よほどブブルル王国で悪い方向に洗脳されてしまったようだしな。ワシがふざけた国に転生させてしまった責任じゃったからな。お詫びに全属性魔法適性付与と魔力は人外にしておいたが、活かされていて良かったわい」


 急に魔法が使えるようになったからひょっとしたらと思っていましたが、神様のおかげだったのですね。

 特に回復魔法のおかげで国王陛下やチュリップを救うことができたので、大変感謝しています。


「神様からのプレゼントだったのですね! ありがとうございます!」


「実はもうひとつ、関与してある。今日はそれを伝えにきたのじゃよ。夢枕ならネタバレしても問題ないしのう」

「ネタバレ……」


 そういえばメビルス王国に来る前には魔法全属性使えることを教えてくれませんでしたね。

 神界のルールなのでしょう。


「キミは元々ブブルル王国の聖女として国に登録されていただろう?」

「はい。ですが、解雇宣言されたのですでに抹消はされているかと」

「いや、しっかりと聖女として登録されていた」

「そんな……」


 衝撃的事実を聞かされて焦っています。

 メビルス王国に呑気に滞在しているのも、すでに国から聖女として抹消されていると思い込んでいたからです。

 これはかなりマズいことになりました。

 もしも私がメビルス王国にいることがバレたら、確実にゴルザーフ国王陛下が奪還を企んでくるでしょう。

 しかも聖女の力を勝手に使いやがってとか言い出して多額の請求までされそうです。

 私のせいでメビルス王国に迷惑が……。

 目を覚ましたらすぐにこの国から消えて身を隠さないと大変なことになってしまう……。


「心配無用。ワシが改ざんしておいた」

「はい!?」

「キミがブブルル王国の聖女として在籍していたことを無いものに書き換えておいた」

「本当ですか!?」


 私の目はさぞ輝いていたことでしょう。

 神様と直接何度も会っていたからこそ、ありえないような事実もすぐに信用できるのです。

 ブブルル王国での在籍がなければ、今までどおりメビルス王国で堂々と生活ができます。


「こればかりはワシが手を加えないとキミが不利になってしまうからの」

「ありがとうございます!! なんとお礼を言えば良いのか……」

「元々ワシがミスして大変な思いをさせてしまったから気にせんで良い。それよりもキミが目を覚ました時間、ブブルル王国付近に上級モンスターが出現する」

「え……!?」

「赤の兆候が出ているからの」


 神様は落ち着きながら話していますが、それを聞いた私の顔は真っ青になっていたことでしょう。

 ユメの中だけど。

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