第19話
「ヴィイ!! 俺の前で乗り換え宣言はないだろう!」
カイン騎士団長が涙目になって訴えています。
しかし、チュリップは、なにを言ってんだコイツと言ったような雰囲気で首を傾げました。
「ヴィレーナ様の専属侍女としてお世話をしていきたいという意味だけど……」
「ヴィイは毎度説明が雑すぎるんだよ! 俺はてっきりヴィレーナとイチャコラしていきたいと言っているのかと思ってしまったぞ」
「まぁそれも良いわね」
「な!」
「半分冗談よ。私はいつまでもカインの側で添い遂げるつもりなので」
あぁビックリした。
チュリップは高身長でモデル体系のうえ、顔もとても可愛いのです。
女の私でも彼女にドキドキすることだってあるくらいで、全然ありだったりします。
でも、カイン騎士団長と交際していると知っていますし、修羅場になるかとヒヤヒヤしました。
それに、もしかしたら私はキーファウス殿下と婚約する可能性もありますからね。
どちらにしてもチュリップがそう言ってくれたことはとても嬉しかったです。
「例えばですけれど、今までどおり侍女として一緒にいながら王宮直属魔導士をすることはできないのですか?」
「うーむ。しかしそれではチュリップの負担が……」
「私は全然構いません。むしろそれだったらやります」
「そうか。ならばなにも言うまい」
これで問題解決です。
私のために身の回りの世話を色々尽くしてくれるチュリップですが、これからは最低限のことにしてもらって残りは自分でやることにします。
もちろんこのタイミングではキーファウス殿下が却下してきそうなので、絶対に言いませんが。
「最後にヴィレーナ殿に頼みたいことがある」
「はい。聖なる力は毎日問題なく発動できるので、他にも使用人、侍女、掃除、世話係、庭師、なんでもやりますよー」
ブブルル王国で強制労働させられていたことを思い出します。
ひととおりやっていたことの一部を言ってみましたが、ぶっちゃけ全部引き受けても良いです。
みんな優しくしてくださるので、やる気で満ち溢れているのですから。
「いや、聖なる力で結界を作ってくれるだけで十分だ。それに、騎士団のために一部異例の結界も作るのだろう?」
「いえいえ、それだけでこんな高待遇をいただくわけには」
「十分だろう。貴族としての給金のほか、聖女としての報酬もやはり支払おう」
「しかし、財政を黒字にするのが使命なのですよね?」
「結界は必要経費だ。絶対的に必要な部分でカットしたり遠慮されたりした状況で黒字になっても意味がない。支払うべきことはしっかりと行ったうえで黒字にさせてみせる」
キーファウス殿下の真面目な発言を聞いて、感激してしまいました。
ブブルル王国の国王陛下に聞かせてあげたいくらい。
あの国王は必要経費も全部カットして王家の給金を莫大にあげていたようですし。
「わかりました。でも、王金貨百枚もいりません。適正価格として年に金貨を三百六十五枚いただけたら幸いです」
「「「は!?」」」
一回に金貨一枚。十万円です。
もらいすぎですが、貴族になりましたからね。
将来的に屋敷を持つようになった場合、何人か使用人や執事を雇うことになると思います。
屋敷維持のためにある程度のお金を貯めておいたほうがいいかと思って必要になりそうな分だけ請求することにしました。
報酬はいらないと言っても絶対に断られそうですからね。
「本当に良いのか!? 本来ならば毎日王金貨を支払うくらいのことをしているのだぞ」
「貴族の給金も支給されるのでしょう? 結界に関しては毎朝祈るだけでできることですから、いりません」
最初は、一年で王金貨を千枚以上枚払うと言ってきたくらいです。
年収百億円……。そんなに巨額のお金をもらいすぎても使い道がありません。
現状家は持っていないうえ、王宮に住ませてもらっていて、さらに衣食住の料金が発生しません。
もうそれだけで十分すぎるほどの高待遇なので、これが毎日の祈りの報酬で良いと言ってます。
「ヴィレーナ殿は私のために無理をしているとしか思えないのだが……」
「いえ、全くそんなことはありませんよ。むしろ、先ほど言った金貨一枚でも大感謝です」
前世で社畜生活をしていたとき、給料でどんどんお金が入ってくるものの、時間がなさすぎて使い道がありませんでした。
お金だけが増えていってなにもできなかったという虚しさを経験しているため、最低限のお金があればいいと思うようになったのです。
「過去の聖女様は、一度祈るだけでかなりの体力を消耗し、上級魔法を発動して魔力切れ寸前を起こすような感覚になると言っていたのだぞ」
たしかにブブルル王国にいたころは、毎回聖なる力を発動したあとはかなりの疲労がありました。
そのあとに使用人業務をしなければならず、疲れたなど言っている暇すらなかったのです。
でも、どういうわけかメビルス王国に来てからは、疲労がほとんどないのです。
私は、何度も大丈夫ですよとキーファウス殿下に向かって微笑みました。
「過去の金額はどうであれ、私の負担を考慮したら十分です。それに財政破綻をさせないために二年以内に黒字にしなければならないのでしょう?」
「それが俺の試練とはいえ……」
「はい、私の件も決まりっ。ありがたく毎日金貨一枚をいただきます」
半ば強制的に司会進行をしてしまいました。
そうでもしないと、いつまでたっても巨額の報酬を支払うと言ってきそうですし。
今思うと、銀貨一枚でも良かったような……。
「ヴィレーナ殿……。なんというお方だ……」
キーファウス殿下が今までに見せたことのない淡い魅力を感じさせるような視線を私に向けてきます。
群青色の瞳がキラキラと輝かせながら。
「はっはっは! ヴィレーナは謙虚だからな!」
「え? カイン様。それはなにか?」
「キーファウス殿下がそんな目をするのも無理はないな」
「カイン! あまりからかうな!」
「あぁ、やっとですね。俺もチュリップも全力で応援しますんで」
いったいなんの話でしょうか。
なにか私だけ取り残されたような気もしますが、彼ら同士の長い年月の付き合いには敵いませんよね。
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