第16話

「たかが聖女の分際で、わたくしの魔導士の地位を脅かそうとしたせいでこんなことに……」


 ロレレは私のことをジロリと睨んできます。

 私なにもしていないのですが。


「昼間の襲撃もそなたの仕業か?」

「全てはカインのせいですわ! わたくしというものがありながら、そこのチュリップなんかを選んだからです! どれだけの屈辱だったか誰にも理解できないでしょうけれど!」


 ロレレの言い分が意味不明です。

 本人も頭に血が上っているのか、錯乱状態のようになっていて、これでは話し合いなど無意味なような気がします。


「あの、ちょっと良いでしょうか?」


 私が右手を上げて提案します。


「ロレレさんの興奮状態を落ち着かせるための魔法をかけてもよろしいですか?」

「かまわぬが、そんなこともできるのか?」


 国王陛下から許可をもらい、すぐに魔法を発動しようとしましたが、ロレレが縛られながらも暴れています。

 しかし、カイン騎士団長とチュリップがガッツリと拘束してくれたおかげで、ロレレに触れることができました。

 そのまま覚えたての光属性魔法を発動します。

 するとロレレはさっきまでの錯乱状態が嘘のように落ち着きを取り戻しました。


「陛下がわたくしのことを認めようとしないからです」

「キミの魔法に関しては評価していたが」

「そんなのは当たり前です。わたくし以上の魔導師など存在しませんのですから。そこにいるキーファウス殿下ならびにカイン騎士団長との交際をお認めにならないからです!!」


 さすがの国王陛下もなにも言えずなようでした。

 ロレレは当たり前だと言ったように話を続けます。


「わたくしは国のためを思い強力な魔力を持ったわたくしと殿下で子供を作り子孫繁栄すればと思っていました。しかし、陛下はお認めにならずではありませんか。代わりにカイン騎士団長で妥協しようかと思いましたが、わたくしを選ばずにチュリップなどを選んだ……。許せることではありません。チュリップが無力になればカイン騎士団長もわたくしのことを見るようになるかと思いましたが、なぜ二人の愛は深まるばかりなのか理解ができません」


「まさか……チュリップの大怪我はロレレ殿が仕組んだのか!?」

「今さら気がつくなんて間抜けですわね。陛下も陛下で、路上で大人しく眠っていればよかったのですよ。そうすれば、わたくしはキーファウス殿下と愛を育むことだってできたのです」

「そこまで身勝手な女だったとは……。そんなことでチュリップを……!!」


 カイン騎士団長がロレレを激しく睨みつけています。

 もう一度落ち着かせる魔法が必要かも……。


「そんなこと? あなたたちのようにわたくしは適当な政策などしておりません。文句があるのなら、わたくし以上の実力を見せることです。というわけで今回の件も無罪。早く解放してくださらない?」


 ロレレの無茶苦茶な発言を聞き、誰もが呆れています。


「愚かなのはおまえのほうだロレレ! 父上は自らのポケットマネーを使ってでも聖女を連れてきて結界をなんとか作ろうと動いていた。チュリップはおまえのくだらん策のせいで力を失った。だが、それでも国にできることを必死に探し侍女として働いている。カイン騎士団長も彼女のことを元気付け、互いに励まし合っていた。ロレレにそのような協力する心意義はあるのか?」


「わたくしがこんなに愛しているのにそのようなことを言うのですか?」

「それとこれとは別だ。国を支えるのは個人行動ではない。皆が協力して作っていくものだ。もちろん民も含めてだ。そもそもロレレのような者に私が好意を持つわけがない!」

「そんな……」


 ロレレは驚きを隠し切れないでいますが、親を暗殺しようとした人を好きになるわけがないでしょう……。

 それにしてもキーファウス殿下の発言はカッコ良かったです。

 あれだけメチャクチャなことを言っていたロレレも黙らせる説得力。

 こんな状況ですが、キーファウス殿下に釘付けになっていました。


「それからおまえは勘違いしている。ロレレよりもはるかに魔力量を持ち、全属性の適性を持ち、チュリップの後遺症すらを治した英雄がここにいる」


 げ!

 キーファウス殿下、それは言っちゃダメなやつです!

 でもこのメンバーは全員知っているし、ロレレはこのまま牢獄だから大丈夫か……。


「あの怪我を治した!? まさか……。そこの聖女は伝説魔法まで……」

「それでも彼女は報酬なども求めず、威張ることもない。私が次期国王になったらどちらにしてもロレレのような身勝手な魔導師はクビにしているが」

「な……!?」

「それでもまだなにか言いたいことはあるか?」

「…………」

「騎士団元隊長チュリップに危害を加え国にダメージを与え、父上をも殺そうとした。生涯罪を償うことになるだろう」


 ロレレは無言のまま連行されていきました。

 これで国王陛下の身の危険も幾分マシになったことでしょう。


「ヴィレーナよ。そなたのおかげで余は助かった。本当に感謝しても足りぬほどのことをしてくれた。あらためて、ありがとう」


 そう言って国王陛下が跪いてきました……。

 流れでここにいる全員が跪いてくるのです。


「みなさん顔をあげてください……。私はたまたま魔法を使えたというだけですし。陛下が無事でチュリップも元気になった。それで良いではないですか」

「ふははは。今の謙虚なセリフをロレレに聞かせてあげたいくらいだ。今回の件は明日改めて謁見を開き礼をしたいと思う」

「いえいえ、もう十分すぎるほど色々と良くしてくださっているので」

「そうはいかぬ」


 あぁ……。またこうなってしまいましたね。

 ここでお礼を言われただけで十分なのですが。

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