贈り物

あーる

贈り物

私の生まれ育ったこの国は1000年前から続いている

この国は鉱山に恵まれ そこからは唯一の鉱物が採取される

他国はそれを求め この国はそれを利用し服従させる

強さと豊かさを持ち 他国が手を出せない強国


そしてこの国の王が私の父

父は強さを求める人だ

いつだって真っ直ぐ前を見て 背筋を伸ばし胸を張り 何もかも従え 必要ならば恐怖で縛る 

それは私や弟も例外ではなかった

だから泣くことも逃げることも 私や弟は許されなかった

父がいる空間は ひどく怖く萎縮し とても息苦しかった


王である父と対照的な人が王女である母

母が求めるのは強さは心の強さ

父の前で怯えてしまう私や弟の前に立ち 安らぎをくれた

母がいる空間は とても優しく穏やかで 息をすることができた


父と母のふたりの間には信頼も愛も確かにあって

ふたりが私たちのことを大切に思っていることもわかっていた

ただ王として私たちの前に立つ父が怖かった


そんな父が父として私たちの前に立ってくれる空間が 私たちの住んでいる城にある庭だ

この庭は母が育てた花で囲まれていて 私たちが王族であることを忘れられる特別な空間だ


ある日 この庭で母とふたりでいるときに話してくれたことがある

その声が今にも消えてしまいそうだったのを覚えてる

母は急に私を抱きしめて 絞り出すように言った

いつかこの国の強さも豊かさもなくなるときが来る そしてそれは私や弟の時代かもしれない

とても苦しそうな母が心配で顔を見上げれば 涙を流していた

当時の私にはその意味が何もわからなかった

だってこの国には鉱山がある だから何も変わらない 本当にそう思っていた


でも今ならわかる 私たちが手にしているのは偽りの強さと豊かさだ

鉱山の資源には限りがある 他国を縛ってるその鎖がなくなれば この国は潰される

潰されたあと この国はどうなるか

私は母に隠れて見ようとしていなかった でもそれを母はずっと見ていた

そしてきっと王である父も見ていたはず

母はこの国の未来を考えて涙を流せる この国で誰よりも強くて優しい人だ


今は亡きお婆様に言われたことがある それは片隅にある小さい記憶

昔この国は小さく強さもなかったけれど 緑豊かな国だった

それは自然がくれた素敵な贈り物で この国の人々はそれを大切にしてきた

けれど鉱山を手にしたこの国は 自然を手放してしまったと

これはお婆様が幼い頃に 私と同じようにお婆様から聞かされたこの国の歴史だ


もしこの国に緑が戻ったら母の涙は止まるだろうか

私は強くなろう この国がいつまでも未来にあるように

この国が偽りにの強さと豊かさを手放せるように

きっとその強さは父と母が教えてくれていた

次に母がこの国の未来を見るとき その顔に笑顔があるように

私は強くなる

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贈り物 あーる @RRR_666

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