ショートショート集

岩紙光利

賞美期限

 母が夕食の買い出しから帰ると、私は真っ先に買い物袋に飛びつき中身をチェックする。


 チョコ菓子がある!興奮して早速箱を開けて食べ始める。「晩ごはんの前にそんなに食べたら太るわよ!」という母の声も掻き消されるほどの幸福感。そもそも私は太りづらい体質なので体型を気にするほど太ったことがない。


 食べ終えた後お菓子の箱をぼんやり眺めていると、何か違和感を覚えた。箱に表示されているはずの【賞味期限】の文字が【賞美期限】となっていたのだ。


 それと、このチョコ菓子を食べてから心なしか肌がツルツルしている気がする。もしかして…いやまさかね。【賞美期限】は1週間後になっていた。 


 それから1週間が経った朝、目覚めると肌の調子は見るからに悪くなっていた。というよりもあのチョコ菓子を食べる前の状態に戻っていた。

 あのお菓子を食べ続ければどんどん美しくなるのでは…


 その日の夕方、私はあのチョコ菓子を近所のスーパーで買って帰った。帰宅するとすぐに開封し口の中に放り込む。飲み込んだ直後、手で顔に触れるとやはりツルツルになっている気がする。鏡で確認してもはっきりと分かるほどに変化があった。


 それから私はあのお菓子を毎日欠かさず食べるようになった。食べれば食べるほど肌が美しくなっていく。この感覚が病みつきでとにかく食べた。


 容姿に自信がついた私は長年想いを寄せていた幼馴染をデートに誘うことにした。1年近く会っていないので、私の変わり様に驚くに違いない。


 デートまでの期間中、お菓子の量を1日3箱に増やした。食べるのが辛いなんて思うのは生まれて初めてだったが、美しさのためだ。ひたすらに食べた。

 そして迎えたデート当日。肌の調子は最高潮だ!


「お前何か変わったな」


「そう?自分ではあまり分からないけど…」


「うん、こんなこと女性に言うのもどうなのかって思うけど…すごい太ったよな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る