体美派Ⅵ—テニス—Ⅰ

「さて!次はテニスよ!」


 若葉色の運動着に着替え、白のサンバイザーを被り、ラケットを突き出す。リベルはそれに倣って何となく突き出してみただけであり、小首をかしげている。


「っと。それじゃあ、ネットを挟んで対面しようか」


 サーフェスは芝で、通常の地面よりは滑る。撒かれている砂の反射が眩しく、慣れるまでは時間がかかりそうであるが、指示された通り、ネットを手で押し下げ乗り越えモネと対面する。


「で、ここは何をどうするところなんだ」


 するとモネはポケットからテニスボールを取り出した。


「これをね……」


 そしてボールを体から少し遠めの前に投げ出す。


「こうする、の!」


 スパァンと軽快な音とともにリベルの横を瞬時に通り抜けていった。


「すごいな」


「でしょー。やってみるとこれだけでもそれなりに楽しいよ。今回に至っては君のマヌケ面も見られたし」


 毎度のごとく、別段求めてもいないことを言われ眉をひそめるリベルであるが、そろそろ一々構うものでもないことを自覚して流す。自分の持っているラケットを振り上げ、モネのフォームを真似する。


「こんな……感じか!」


 勢い良く振る。遠心力もあって中々にやった感は感じるが今一つ物足りない。


「なんか手ごたえがないな」


 モネがにんまりと得意げな顔をする。


「そりゃあ、やっぱりボールを打たないとただ棒っ切れを振ってるのと大差ないからね。真ん中が空いてる分、伝説の剣にもなれないし」


 モネは言いつつ、リベル側に渡ってきて先ほど打ったボールを回収する。


「よし。それじゃ、やってみようか。まずはそうだなー……ボールつきからがいいかな」


 ボールを地面に落とし跳ね返ってきたボールをまたラケットで叩きつけ、それを繰り返してみせる。リベルも真似を始める。最初の二、三度はフレームに当たったりイチョウに当たったりしてあらぬ方へ飛んでいったができてきた。


「うん!それじゃ、レベルアップね。次は今の要領で上にしてやるよ」


 今度はボールを上に投げ、落ちてくるボールをラケットに当て上に上げるを繰り返す。これもまた数度やるうちにできるようになった。


「これで大体ボールとラケットの感覚はつかめたかな?次にいこっか。じゃあ、私がボールを君に向かって投げるから一度バウンドさせて打ってみて」


 練習の内容を語りつつ、コート入り口近くにおいてあったボールのカートを引き連れ戻ってくる。そしてこれまた見本を見せてくる。モネは自分で高めにボールを放ち、回り込んで打つ。流れるような動きはきれいであった。


「これはフォアハンド。差しあたってはこれが目標だね。それじゃー、この線に立って、いくよー……そーれ!」


 リベルはコート後方のベースラインに立たされ、モネにほうられたボールに照準を合わせる。言われた通り、ワンバウンドさせた。上がってくるボールが頂点に達し寸刻止まった。「ここだ!」と思いっきり振ってみると、ボールは後ろに転がっていた。


「アハハハ!そんな真剣な顔で、そんなきれいに空振りって……ないでしょ!ないない!」


 よっぽどおかしいらしく、腹を抱えてよじれて笑って見せてくる。リベルは一生懸命やった結果を笑われてラケットを地面に投げつけてしまった。


「ああ!ちょっと、借りものなんだからそんな風に扱っちゃだめだよ。壊したら弁償しなくちゃなんだから。というかそもそも、物は安易に壊しちゃいけないよ?怒らしちゃった私も悪いけどね」


 リベルはなおも機嫌が直らず、そっぽを向いたままである。気まずさに耐えかね、一つ息を吐くとモネはリベルのラケットを拾い、その手に握らせそのまま二人羽織りのごとくフォームの確認をさせる。数度繰り返した後はカートからボールを五球ほど取ってきて目の前で落とし一緒に打ってみせる。最後の一球は思いっきり振らしてみせ、最初の一球同様の軽快な音が鳴ってコートの向こうへと飛んでいった。モネがリベルの顔を覗き込むと、リベルも見返してきた。その顔は満面の笑みであり、鼻息荒く興奮もしているようだった。


「どう?すっごく爽快感あるでしょ?」


「すごく気持ちがいいな!もう一回やりたい!」


 せがむリベルに応え、モネはカートに戻って尽きるまでリベルの前にボールを抛ってやった。

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