体美派Ⅲ
モネが施設図を指さし確認しながら、手始めにどこに行くか思案している。
「どれにしようかなー。リベルは気になるのある?」
言われ、リベルは座り込みながら、キラキラとした笑顔を弾け飛ばすあちこちの人間たちを物憂げに見つつ返す。
「なんでもいいよ。アイツが言ってた水泳ってのでいいんじゃないか」
視線を戻し、指していた指をすいーっとプールに移動させる。図面上だけでもだいぶ距離があった。
「うーん。水泳かー。君のいつかあるかもしれない危険に備えての水練にはいいと思うんだけどね。水に入るなら、先に汗をかいておいた方がちょっとお得感はあるよね」
「汗か。動けば出るあれだな」
「そうだね」
「動かなくても出たな」
「そうだね。ちなみに言うと、冷や汗なんてのもあるよ」
「なんだと。熱ければ出るんじゃないのか」
リベルが頭を抱え始めた。混乱しているらしい。頭に水をかぶせてやった方がよさそうである。モネは苦笑と共に決断を下した。
「やっぱり水泳にしようか。汗を流すにしても移動でほんのりかけそうだし、リベルにもちょうどいいでしょ。存分に冷やしなさい」
リベルの肩をたたき、モネが立ち上がらせる。プールは施設図を見るに受付から右へざっと二キロだ。旅の距離を考えればどうってことはない。しかし、二人は基本馬車であって、歩き慣れてはいなかった。
三〇分ほど歩き、やっとの思いで着いた。ここもまた男と女で分かれている。
「流石に、体美派だからって水着の概念がないとかはないよね……」
モネが入口近くにいる、身長の高い、洗練というのが相応しい女性に尋ねる。
「あのー。プールで鍛えたいんだけど、水着って貸し出しとかはあったりしないかな」
女性はこの施設にしては面倒くさそうに応答する。
「水着?貸し出しはあるはずよ。ただ、どうかしら。水着を着ない連中もいるから、苦手ならお勧めしないわ。一応言っておくと、ここから左に行けばある」
「あ、ありがとう。ちなみになんだけど、その水着を着ない連中ってのは女の人もいるの?」
「そうね。自信があるのは大いによろしいけど、そうした品のない見せびらかし方を採る人もいるわ」
「そっか。でも水着は着て入っていいんだもんね」
「ええ、そうよ。もしかして……連れの子のことを心配しているのかしら?」
「ん?」
隣でモネに任しておけばいいと思って突っ立っていたリベルは考えもなしに返事をする。そのあまりの無知ぶりにモネは慌てて付け足す。
「いやぁ、ね!この子は弟みたいなもんなんだけど、まだあんまり知らないことが多くて。そういう美しさはまだ早いっていうか……」
「別に何か勘ぐっているわけではないわよ。私だって言ったでしょ。品のない見せびらかし方だって。あなたたちがここの利用は初めてみたいだから言っただけで、こんなこと常連にでも言ったら集中砲火を食らって、ともすれば落ちることになりかねないんだから」
女性は始めは鼻を鳴らして何でもない風を装っていたが、段々と不安の色がにじんできていた。
「そっか。その……色々聞いちゃって申し訳ないんだけど、最後に一つだけいいかな」
「はぁ。何かしら」
「秤ノ守様の御姿を見たことはある?」
「ないわね」
その回答に満足したのか、モネは柔らかに微笑んだ。
「そうなんだ。あーあ。一目でもお目にかかれたらよかったんだけどな。ああそうだ!ほんと色々教えてくれてありがとね!」
女性の手を掴み乱暴に振って全力の感謝を演出する。
「ほら!リベルも」
リベルは頬をかきながら照れくさそうに言う。
「ありがとう」
すると、女性は満更でもない笑みを浮かべてその場を去っていった。心なしか足取りは軽いようであった。
「さて、と。それじゃ、水着を選びに行こうか。水練のつもりだから大したものを選びはしないけどね」
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