『森の中を逃げる"あなた"』

名無しの報告者XXX ▋: ^ )

――本文

あなたは今、森の中にいます。

森の中は薄闇に包まれ、鳥や動物の鳴き声一つしない不気味な静けさが漂っています。


あなたは、背後に何かが潜んでいるのを感じました。枝が折れる音が近づいてきます。どうやらそれは、どんどんこちらに近づいてきているようです。


あなたは後ろを振り返りました。すると、あなたの数メートル後ろに、黒いレインコートを着た人物がこちらに近づいてきていました。その人物は、手に刃物を持っており、顔には、目の箇所に二つの黒い穴が空いているだけの、鼻も口もついていない白い仮面を付けていました。


その仮面の下からは冷酷な眼差しを送る目が覗いています。


恐怖に駆られたあなたは、その場から走り出しました。


すると、後ろにいる"それ"もあなたを追いかけて走り出しました。


あなたは薄暗い森の中を駆けていきます。枝や葉をかき分け、木々を避けながら、一心不乱に"それ"から逃げます。


追跡は止まず、枝が折れる足音はどんどん近づいてきます。あなたは息を切らしながら、"それ"に追いつかれないように必死に走り続けます。あなたは、追っ手との距離が刻々と近づいていることに気づき、心臓の鼓動が高鳴っていきます。


「 」とあなたは心の中で叫ぶ。あなたの体力は限界が近づいています。


その時、あなたはうつ伏せに倒れてしまいました。

足元を見るとそこには木の根っこがあり、その根っこにあなたの足が絡まっています。


向こうからは"それ"が近づいてきます。


あなたは必死に根っこから足を引き抜こうとします。でも焦っているせいで上手く足を引き抜けません。


そうこうしている内に"それ"との距離は縮まっていきます。


とうとうそれはあなたのすぐ目前までやってきました。あなたは"それ"が手に持っている刃物の柄を見て、恐怖します。


あなたは"それ"に「 」と叫びました。


すると、"それ"は「あなたを殺さなければならない」と言いました。


あなたは「 」と"それ"に聞きました。


「なぜならあなたは偽物だから」と"それ"は言いました。


"それ"が刃物を振りかざそうとしたその時、木の根っこから足が抜けました。あなたは間一髪、"それ"からの攻撃を振り切る事ができ、そのまま、一目散に逃げ出しました。


あなたはとにかく、無我夢中に森の中を走りました。


あなたは気がつくと、森を抜けていました。目の前には湖が広がっています。周囲は草で覆われ、湖は暗い緑色の水で満たされていました。


"それ"が森の中から出てきました。"それ"はゆっくりとあなたに近づいてきます。


あなたにはもう、目の前の湖を通るしか逃げ道はありません。


あなたは、湖に片足を入れました。冷たい水が肌に触れ、全身に震えが走るのを感じました。あなたは深呼吸をして、湖に飛び込もうとします。


水面を見ると、あなたの顔が写っていました。


あなたはその水面に映る自分の顔を見て唖然としました。


なぜなら、その水面に映るあなたの顔は、全く知らない別の人だったからです。


あなたが呆気に囚われている間にも、それはすぐそこまで迫ってきています。


それは刃物を持った手を上げると、あなたの胸にその刃物を振り翳しました。


あなたは、刃物の柄が自分の胸部に突き刺さっているのを見ました。


あなたはそのまま、水飛沫を上げながら水面に仰向けの状態で倒れました。周囲の水面は、あなたの体から出た血で徐々に赤く染まっていきます。


意識が朦朧とする中、"それは"顔に付けているマスクを片手で取りました。


あなたはそれを見て、目を丸くし、驚愕しました。


仮面を外した"それ"の顔は"あなた"だったからです。


"それ"は笑みを浮かべながら、意識が遠のいて行くあなたに向かって言いました。


「これからは私があなたです」


あなたの視界は真っ暗になって、湖の底に沈んでいきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『森の中を逃げる"あなた"』 名無しの報告者XXX ▋: ^ ) @user_nwo12n12knu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ