あなたの虜

樺純

第1話




30歳の女は曲がり角とはよく言ったものだ。



まず、肌が変わり体型が変わる。



この歳で結婚をして子供を出産していれば…世間の目はそう痛くはない。



しかし、30代になり女が独身で彼氏もいないときたら…



まず言われるのが「彼氏作らないの?」



そして、次に言われるのが「結婚しないの?」



その次に言われるのが「子供欲しくないの?」



この三拍子。



セクハラやらモラハラは注目される世の中になってきたが、独身者に対するハラスメントに関してこの世の中、そう厳しくもないのが現状のようだ。



特に親世代からの独ハラときたらもうえげつないし私の場合は親世代というよりも………



まぁ、そんな話は置いといて私の自己紹介でもしましょうかね。



私の名前はミラ



32歳独身、彼氏なし。



22歳のとき当時はまだ小さな芸能事務所だったB STARに就職。



今では世界的トップスターとなっている7人組アイドルグループBlue and Red、通称ブルレの担当マネージャー。



彼らのおかげでウチの事務所はどんどん急成長し、今では世界でも注目される芸能人事務所となった。



私が彼らのマネージャーに就任したのが彼らのデビューが決まる直前で、私がまだ24歳だったのとき。



当時のメンバー達は今の姿から想像も出来ないほど田舎臭くて純粋で素朴だったけど、年上である私の言うことは何でも「ハイ!」と聞き、食べたいお弁当のおかずを聞いてあげるだけで喜ぶようなとても良い子たちで本当に可愛かった。



この当時の私の悩みと言えばグループ内で1番末っ子のジュイが年上の私のことを平気で呼び捨てにすることぐらいだった。



そんな怒涛の日々から8年がすぎ彼らは今やトップアイドルいや、トップアーティストとなり世界中を飛びわまって活動しウチの事務所の稼ぎ頭となった。



「ミラはまだ、結婚しないの?」



ジュイはつい最近、覚えたばかりの甘ーいアイスコーヒーを飲みストローを咥え生意気にも足を組みながら私にそう問いかけた。



*「ねぇさんって呼ぶのが嫌ならせめて人前ではさん付けしなさい。ジュイのイメージが悪くなるんだよ?」



私はジュイの質問に答える事なくそう注意する。



マネージャーとしてタレントのイメージを守るのも仕事のうちだが、ウチの末っ子ときたらそんなのお構いなしで自分の思うまま自由気ままに生きている。



まぁ正直、これだけ売れっ子になってしまうと私のこと呼び捨てにしようがしまいが正直どっちでもいいのだけれど…



さすがに人前で自身よりはるかに年上の女を呼び捨てにするのはイメージが悪い。



なにより変な誤解が生まれたり、他のメンバーは私のことをちゃんと親しみを込めて「ねぇさん」と呼んでいる事もありどうしても私を呼び捨てにするジュイの存在が悪目立ちしてしまう。



「彼氏もいないのに結婚なんで出来ねぇだろね?」



顔面国宝のような美しい顔を持つトウジが珍しく的確な回答をし、私の胸はさらにグサッと抉れるが僅かな抵抗として引きずった笑顔をトウジに見せるとなぜか、トウジも世界が度肝を抜かれるような整った笑顔を私に向けた。



「そもそもねぇさんは男作る気あんの?」



マサトは暇つぶしの材料を見つけたと言わんばかりに楽しそうな顔をして私のプライベート話に参加する。



「仕事を言い訳にしちゃダメだよ〜」



ハヤトはいつも優しい笑顔なのに時々真顔でグサッとくることを言ってくるからコレまた私の肩身が狭い。




「ねぇさんお見合いでもしてみたら?」



グループリーダーでもある知的なナオは私の恋愛話には興味がないくせに分厚い本を読み眼鏡を光らせながらそう口を開く。



「向こうがお断りだろ?」



ファンの間ではツンデレで有名なユウは私にしてみたらデレなんて一切なくてただのツンツン野郎だ。



「はいはい〜この話は終わり!!みんな早く用意しろよ〜!!」



イチは唯一の私の味方でこういう話の流れになるといつもこうやって話の流れを切ってくれる優しい人。



そして、この説明でも十分すぎるほど伝わったと思うが私は今…イチ以外のメンバーから独身ハラスメントを受けている。



*「イチ、ありがとう…」



「あいつらの言うこと気にしなくていいよ?そんなの縁だしねぇさんのタイミングがあるんだから…ね?」



*「うん…。」



私とイチは年齢が近いこともあって昔から手のかかる他のメンバー達とは違い、色々と相談をし合ったり励まし合ったりして私にとってとても助かる存在だ。



そんな私は独ハラを受けながらも今日も元気に仕事をこなす。



つづく

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