第十九話 教室での出来事
体育祭も近づき実行委員の会議も頻繁に行われていた。
杏子と星宮は会議の後の練習に急いで参加する為、更衣室へ急いでいた。
「最近会議多いよー!それに来週から準備で練習あんま出れないじゃん!」
杏子が不満の声を上げる。
「でも私達は当日やる事ないし、いいじゃん。」
どうやら2年3組の実行委員は準備班に振り分けられたようだ。
当日班は体育祭の進行のための仕事がメインな一方で、準備班はその名の通り体育祭前日までの設営などの仕事がメインである。
そのため、準備班は練習に時間が取れないが、当日は体育祭に集中できるのがメリットである。
「タケくんとコウちゃん体操着で会議来てそのまま練習に向かってたけど私達もそうしよっか。」
「流石にそれはヤダよ!」
「なんでよー!」
杏子の提案を受け入れられない星宮であった。
教室に体操着を取りに寄ると、クラスにポニーテールの女子がひとり外を眺めていた。
杏子達が教室に入って来たことに気づきこちらを睨みつける。
「あんな奴ほっとこうぜ。」
星宮が杏子へ声をかける。
「星宮、先に行ってて。」
「お前、またなんか言われるぞ。気にすんなよ。」
杏子は星宮を安心させるように笑顔を作った。
「大丈夫!心配しないで!」
星宮はひとり更衣室へと向かう。
杏子はゆっくりとポニーテールの女子へと近づく。
「雨音さんも一緒に練習しない?」
雨音咲耶(あまね さや)はこの2年3組のとある女子グループのリーダー格の女子であり、杏子と体育祭の話し合いで言い争いをした人物である。
「は?何言ってんの?」
当然の反応であった。
しかし、雨音と仲のよかった取り巻き達もクラスの雰囲気に居心地が悪くなり、嫌々ながらも練習に参加しており雨音だけが参加していない状況であった。
「雨音さんの友達も参加してくれてるし、それに体育祭頑張ったら楽しいかもしれないよ。」
「クラスで頑張って楽しいなんて子供じゃないんだから。そんなことあるわけないでしょ!本当にアンタが余計なことしたせいで面倒くさいことになったわよ。」
「でも私達子供だよ?それにもし今楽しめるなら色々楽しんだ方がいいと思うよ。」
30年以上生きている記憶があるからこそ、今がまだ子供でこの時間がかけがえのない物になると知っているからこその杏子の言葉であった。
「はっきり言ってあげる!私はね、アンタのことが初等部の頃からずっと嫌いだった!なんでかわかる!?だから私はアンタのやる事に協力なんてしたくない。」
杏子は記憶を遡るが、嫌われている理由がわからなかった。しかし、かつての自分を考えると何かしら自分に原因があると思い謝罪する。
「昔の記憶思い出しても理由がわからない。でもきっと私が悪いと思う。ごめんなさい。それにこの間も泣いたりしてごめんなさい。」
意外にも素直に謝る杏子に動揺するが、雨音は杏子にいたずらな要求をしてみせる。
「過去のことも全て自分が悪いと思うなら、この程度の謝罪なんか受け入れられない!土下座して謝って!全て自分が悪かったって言いながら謝れ!そしたら少しくらいクラスのためにやってもいい!」
雨音は勝ち誇った顔をする。
土下座なんかしないとわかっているから。
しかし杏子は床に膝をつき、額を床に押し付けるようにして謝った。
「今まで本当にごめんなさい。これで許してとは言いません。でも、これで少しでもやる気を出してもらえるなら、お願いします。」
杏子のみっともない姿を見るのは雨音の望んだ事であった。しかし、雨音の心は満たされなかった。むしろ、モヤモヤとした気持ちがとても不愉快であった。
「あんたって本当に馬鹿ね。付き合ってられない。」
雨音は言葉を吐き捨てて教室を立ち去った。
杏子は頭を上げ拳を強く握り、堪えた涙を手で拭い。
星宮の待つ更衣室へと向かった。
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