ヤンキー夫が美少女に!? 〜夫婦で美少女に生まれ変わって百合百合な学生生活!〜
遠山きつね
第一話 夫婦の始まりと終わり。
雨上がりの夜、一台の黒いバンが信号を待っていた。
運転席に座る男は助手席に座るおっとりした可憐な女性に声をかけた。
「色々あったけど、やっと次に進めるな。これからが楽しみだな。」
「そうね。これからもふたりで色々な事を乗り越えていきましょう。」
色黒で目つきが悪く、いかにもなヤンキーの運転手は似合わない照れ笑いをした。
婚姻届を出して正式に夫婦となったふたりは役所からの帰り、未来に希望や不安を感じながらも、ふたりでならきっと乗り越えていけると確信した気持ちで家路に向かっていた。
男の過去はやんちゃをしていた時期もあり、褒められたものではなかった。少年院に入り家族からも疎まれ、居場所もない時期もあった。
しかし、この可憐な女性は幼馴染だからという理由以外でも男を認め、理解し、彼の居場所であり続けた。
だからこそ、青年となった彼も彼女を失望させられないと更生し、職人として独立に至るまで努力したのだ。
「何よりあんなに結婚を目標に頑張ったのに、結婚するって、こんなにも簡単なんだな。拍子抜けしたよ」
男は気の抜けたセリフに安堵が伺える。妻は優しくも強く返す。
「そうね。でも結婚したからには、お互い仕事もより一層頑張らないと。」
あっという間に足止めも終わり、赤だった信号機が青へとかわり、男はブレーキから足をそっと離した。
ゆっくりと黒いバンは動き出し、アクセルに足を置いて交差点の中心へ至ろうとした時、車内は白い光に包まれホワイトアウトしたよう感覚に陥る。
「え?信号無視。」
心の中で呟く前に大きな衝撃を男は感じた。
どれくらい経っただろう、男は腹部への大きな痛みで目が覚める。男は気づいた、この痛みが最期に感じる痛みであり、すぐに痛みを感じることがなくなることも。
「大丈夫か?」
妻は今まで男の見たことのない姿になっていた。
頭から流れる血は決して大丈夫なんてものではなく、返事がなくとも最悪の状態と理解した。
横転した車の車内で男はシートベルトをゆっくりと外し、女の体に落ちるようにして優しく覆い被さった。
「痛くないか?お互いもうダメかもな。」
妻は目をゆっくりと開け自分も助からないと感覚で悟る。
「そうね。でも最期にあなたといれてよかった。死んでもその先もずっと一緒にいれる気がするから。」
男は目頭の熱さを感じることなく、弱った身体が少しの涙を搾り出した。
「死んだ後も永遠に愛し続ける。愛してる」
男は言いたくても言えなかった言葉を吐き出し、黒く冷えた太い腕で残ったわずがな力でできるだけ強く抱きしめた。
妻も応えるように優しく背中に手を回し、言葉を絞り出す。
「愛してる。」
ふたりは永遠の愛を誓うと共に、わずかな悔いを残しつつも満足したと思える人生の最期を迎えた。
はっと意識が戻った金髪のヤンキーは、隣に立つウエディングドレスを着た妻に気がつく。
「俺たち死んだよな?それになんでウエディングドレス?」
フフっと笑った妻は夫の体に人差し指を向ける。
「え?俺もかよ?」
白のタキシードが似合わない風貌の男は動揺が収まらない。
そして、牧師のような姿をした白い髭を伸ばしたお爺さんの存在に気がつく。
「すまないな。神の戯れじゃ、付き合ってくれ一度やってみたかったのじゃ」
ふたりは驚く。
「「え?神様ー!!」」
そして神が続ける。
「新郎あなたは妻が健やかなる時も、病める時も、喜びの時も悲しみの時も、とにかくどんな時も絶対に愛すると誓うな?それに新婦もじゃ」
なんか、いろいろセリフ端折ってまとめたよな?なんて思いながらも誓いますと大きくふたりで宣言した。
「付き合ってくれてありがとうな。これでわしの夢も叶った」
と神から感謝の言葉を頂けたのである。
「いやーこちらこそ、本当にありがとうございます。経済的にも式を上げる予定なかった…というか死んでしまったので上げれないので、ほんと嬉しいです。」
すると神からまさかの提案を受ける。
「付き合ってくれたお礼にもう一度ふたりで生まれ変わらんか?それに今の記憶を持ったままでだ。」
とんでもない提案にふたりは即答する。
「もう一度ふたりで現世に戻れるのなら戻りたいです。でも、なぜ結婚式の真似事に付き合ったくらいで?」
すると神は大きな口を開けて笑う。
「真似事などではないだろ?それに神が望みを叶えて貰ったのだぞ。それぐらいしなければならない。」
「しかし、本当にいいのでしょうか?」
割に合わない条件に申し訳なく思ってしまう。
「ただの神の気まぐれと思って貰えばいい。それに、先ほどの誓いが本当なのか、見守らせてもらうとするよ。どんな事があっても愛し合うという誓いをな。」
意味深な神の言葉など気に留めず、夫婦は涙を溢しながら神に感謝をする。
「前世の記憶が戻るのに少し時間がかかるかもしれんが、お前らは近くに生まれ変わるから心配はいらんぞ。すぐにお互いを認識できる」
目の前が白く染まり虚な世界へと意識が消えていった。
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