23.薬の味
「おい、こっち向け!」
木で破壊されたバルコニーの床の破片を、グッデが投げる。それが男の頭に当たって、逆効果となる。
「そんなに木の餌食になりたいってぇのか?」
くるりと踵をかえした男は、標的をグッデに変えて追い回す。血走った目はウサギよりも赤い。しかし、僕らは息も絶え絶えに逃げ回っていると一向に追いつかれないので不信に思った。男はわざと追いつこうとしないのか、逃げ惑う僕らを楽しんでいる。きりがない。
いつ枝に捕まるとも限らない。そう思うと居たたまれなくなり、がむしゃらに男に突進した。不意打ちを食らった男は体制を崩した。今の内だ。さっきバロピエロからもらった赤い薬を取り出す。少しずつ飲めば魔法ができるというではないか。
魔法が使える。そう思うと、怪しい気もするのに、わくわくしてしまう。今はそんな興奮をしている場合ではないというのに。呪文など知らないがやるだけやってみよう。
思ったより堅く閉まっていたコルクの栓を開けると、軽く弾ける音と同時に果物を熟し過ぎて腐らせたような甘い臭いがした。飲む前にむせて吐きそうだ。味も似たようなものだ。
子供を手なずけるために、にがい薬を調整したというより、もっとたちが悪い。ナメクジのような感触が舌を通ったかと思えば、喉に染みるような甘さと、まるで血を飲んだような苦味が残る。これで本当に魔法ができるのだろうか? 決して美味とは言えない甘味に酔いながら叫ぶ。
「やめろ!」
グッデを追い詰めた男の斧が、たどたどしく掲げられたまま硬直する。どうなったんだ? 魔法ができた? 成功か? きっとそうに違いない。やってみれば簡単だ。風が渦を巻いて男の足にしがみついているのが確認できた。一安心だ。すぐにグッデが魔法の成功を祝う勢いで早口にしゃべり出す。
「どうやったんだ? おれにもできるか?」
自分でも正直驚きだ。魔法にかかった男も驚いている。
「魔法ができるなんて聞いてねぇ。さっきまでは魔力の欠片も感じ取れなかったってぇのに。でも、こんなのでいい気になるな」
不穏な残像を残し、銀色に輝く光が見えた。それが回転した斧だと見極めたときには、逆襲のように僕の足を切り裂いていった。鉄に似た独特の臭いが鼻をつく。血がどくどくと溢れてくる。とても立っていられない。
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