第2話

 とある休日、部屋でうじうじしていたら、ウジイエくんがドライブに連れ出してくれた。海を見に行こう、と彼は言った。

 南へと向かう道はいつものように混み合っていた。遅々として進まない車中、わたしたちは近況を報告し合った。わたしたちは、不倫仲間だったから。

「先週も、かおりさんの家に行ったんだよね」

 と、ウジイエくんが切り出した。

「いつも食事を用意してくれていて、デパ地下のオソウザイとか、オトリヨセだったりするんだけど、でも、その日は、ポテトサラダを手づくりしてくれたんだ」

 彼は前方を見つめたまま、前の車の赤いテールランプに目を細め、銀縁の丸メガネを少し触った。

 ウジイエくんの相手は、勤め先の社長の若妻、といってもわたしたちよりもずいぶん歳が上だったが、そんな、ちょっと、昼ドラのようなことをしていた。

「かおりさんの家って、正直言って、落ち着かないんだけどさ。なんだかそのときは、かおりさんが、きれいなネイルをつけた手で、だけど慣れたふうに、たまねぎを水にさらしたり、じゃがいもをつぶしたりしているのを見てたら、ただそれだけで安心できたんだよね」

 わたしは、所在なげに台所をうろうろしているウジイエくんを想像した。手伝うわけでもなく、置いてある調味料を手に取り、成分表示を見たり、じっと、調理する手元を見つめたりしている。それは、母親に今日の夕飯をたずねる小さな子どものようだ。

 恋が人の数だけあるように、不倫だって人の数だけあるらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る