ヒーロー・オブ・ディメンションズ
一ヶ月毎に旨味成分上昇
次元の狭間からの来訪者
「緊急報! 緊急報! 城下町に次元獣発生! 強力な次元竜であると見られます!」
命名・次元竜α
「お逃げください! 避難経路はあちらです!」
のどかな城下に、突如暗雲が立ち込めた。
分厚い雲、吹き荒ぶ風。
上空には、巨大な黒い亀裂が空間を割るように開く。
時空の狭間。次元の狭間。
そこから現れた黒鉄の塊のような巨大竜。
平和ボケしていた町人の恐怖心を剥き出しにさせる。
逃げ惑う人々を誘導する衛兵は声を張り上げ、王城にこの事実をいち早く伝えようとしていた。
「こうなったら、俺だけでもなんとかしなくちゃ……!」
覚悟は立派なものだが、無謀な行いは身を滅ぼす。
構えた槍は竜の爪に容易く弾かれ、丸腰になった衛兵は先程の覚悟はどこへやら、絶望を丸出しにして腰を抜かした。失禁もしている。
今度は逃がさないと、竜の爪は衛兵を襲う。腰を抜かした衛兵は、これをかわすことはできない。そのままミンチになるまで秒読み———といったところで、駆けつけてきた。
その男は、いや少年は。竜の爪を大剣で受け止めたのだ。
「待たせてしまった申し訳ない。後は俺達に任せてくれ」
彼らは勇者。
このような次元獣を倒し、世界を平和に導くために力を与えられた少年少女。
自分よりもかなり年下の人間に助けられた衛兵だが、その顔は絶望から希望に変わった。
何故なら勇者とはこの町で、この世界で、最も大いなる希望だからである。
炎の勇者、タツヤ・カンザキ。
今次元竜の爪を食い止めている彼の名である。
水の勇者、サヤカ・ハタナカ。
傷ついた衛兵に、癒しの魔法をかけてやっている少女。
風の勇者、カツヒコ・マツイ
たった今勇者になったばかりのお調子者。まだ彼は状況が理解できていない。
そして、光の勇者。
彼の名は
タツヤが全身に力を込めると、大剣の刃から炎が噴き出す。
「ヌオオオオオオオ!!!!!」
そのまま勢いづけて、竜の爪を押し返した。
竜の方はなんでもないように、地面に爪を置く。ただ置いただけでも、その地面を抉り、傷つける。
ここの広場は近々、噴水が設置される。
それを知っていたタツヤとサヤカ、そして二人から聞いていた透は、竜のことを許せないと憤怒した。
竜はそんなことをお構いなしにと、口を大きく開き、炎を吐き出した。
「危ない!」
前に出た透は、長剣を正面に構える。
すると、炎は勇者達を避けて通っていくではないか。
否、そうではない。
よく見れば分かるが、彼らの周囲は光に包まれていた。光のバリアが、炎の直撃を防いでいたのだ。
炎を直撃したはずの勇者達に煤ひとつ付いていないという事実を目の当たりにした竜は、驚愕したように一瞬動きが止まる。
これを好機と見たカツヒコは飛び出し、両手に持った短剣で、竜の頭、背中、尻尾を順に斬りつけていった。
「かってぇ! 刃が通らねぇ!」
鋼と見紛う、剛であり堅である鱗の鎧はカツヒコの振るう二つの刃を、火花を散らして悉く弾く。
背後に回ったカツヒコを待ち受けていたのは、丸太の如き尻尾。
それが振るわれると、カツヒコはいとも簡単にぶっ飛ばされてしまった。
「大丈夫!?」
サヤカは急いで駆け寄り、癒しの魔法をかけてやる。
淡い光に包まれたカツヒコは、程なくして勢いよく飛び上がった。
「すげぇ、ホントに魔法なんだ」
「そうよ。でもあんまり無茶しちゃダメ」
「分かった!」
カツヒコは自然ではあり得ない速度での回復に驚いたものの、すぐにまた戦線復帰した。
次元獣と呼ばれる異世界の魔物とまともにやり合えるのは、彼ら勇者のみである。
だからカツヒコのことを止めたり咎めたりする者はいない。
だが、全くの無策で戦い続けるのは良くない。
たった今判明したカツヒコの強み、それは速さ。
「カツヒコが次元竜αを引きつけて、隙を見つけてタツヤが一撃叩き込むのよ!」
指示を出したのは、サヤカ。
彼女も勇者だが、彼女自身に戦う力はない。
せめて状況を見て指揮をとるのは、勇者として貢献したいという思いからである。
サヤカの指示を鬱陶しいと思った者はいないし、それに的確だ。
カツヒコが竜にちょっかいをかけつつ、持ち前の素早さで竜の攻撃を掻い潜る。
体を大きく動かす攻撃をすれば、竜にも隙が生まれる。
その隙をついて、タツヤの炎を纏わせた刃の一撃を命中させたのだ。
その顔面に傷跡を作り、竜は大きく仰け反った。
流石に威力があったからか、竜も動きを止め……なんてことはなく、すかさず炎を吐く体勢に入る。
透は竜の不穏な動きを見逃すまいと、目を光らせていた。いち早く炎に気付いた透は、もう一度タツヤの前に立って光のバリアを作り出す。
だが、竜の方も学習しなかった訳ではない。
先程の炎で煤ひとつ付けられなかったのならば、単純に火力を上げればよい。
単純故に効果は抜群だった。そして単純故に、普通なら難しい。しかし、竜にとっては容易いことのようだ。
光のバリアは炎に耐えきれず、遂に砕け散ってしまう。
幸運なことに、竜もすぐ後に炎を吐き止めた。
だが、これは別に慈悲でもなんでもない。次の炎もより高火力で吐くために、再び溜め始めただけに過ぎなかった。
程なくして溜まり切った炎が二人に触れる直前、カツヒコとサヤカによって救出される。
軽い火傷程度で、深刻なダメージにならなかったのは幸いだ。
すぐにサヤカの治癒魔法によって回復されていく。
雨が降っている訳でもないのに彼らが水浸しになっているのは、彼女の特異な治癒魔法によるものだ。
むしろ、今の竜相手にはより効果があるような気がしないでもない。
「チクショウ、全く歯が立たない訳じゃないが……正直手応えが無さすぎるな……」
珍しく、タツヤが弱音を吐いた。
「なぁ、俺達って王様に〝世界最高戦力〟って言われてたよな……? その割にはあいつ、めちゃくちゃピンピンしてないか……?」
それに呼応するように、カツヒコも続く。
この悪い流れは、最年長のサヤカによって断ち切られた。
「そんなネガティブなこと言わない! 勝てるもんも勝てなくなるわよ!」
「そうだ、もう一度形勢を立て直そう!」
この場において、最も勇気に溢れる透。
彼の言葉は、言葉以上に全員を奮い立たせる何かがあった。
透が剣を構えると、他三人が光に包まれる。
「力が湧き上がってきた!」
「だからって無茶はダメよ」
「ああ、だが全力は出す!」
タツヤとカツヒコは、今度は一斉に飛びかかった。
竜は応戦するべく炎を吐き出す。
だが、二人を失速させることはできない。
光のバリアは限界まで彼らを護り、彼らの刃を竜へと導いた。
強い衝撃に火花を散らす。
あるいは、竜の頭から発したものなのかもしれない。
竜は怯み、大きく後ずさった。
お互い次の攻撃に移ろうと構える………よりも早く、何者かが現れた。
彼らには見えなかった。竜も認識出来なかった。
———既に、その男によって切り刻まれた竜が絶命していたことに。
「………何もせず、ただ待つことが、お前達の最善の行動なのだ、余計なことはするな」
男の名はユキミチ・タガミ。
彼は五人の勇者の冠から外れながらも勇者とされる———闇の勇者である。
勇者達がそれを知るのは、まだ先の話である。
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