サイバーパンク・バイオレンス

ボウガ

ナイトメア・メアリー

「―ふぅん、それじゃあ……私に失望したとあなたはいうのね、あなたは殺し屋を恨んでいるのに、まるで〝あなたの方が〟が殺し屋みたいね」

 ハイテクな蛍光色を放つ拳銃を持った女が、今横たわる男の血まみれの死骸の上にまたがり拳銃をソレに向けたまま、傍らの女性に尋ねる。その右手は、鋼とプラスチックと柔軟なゴム質の物質人工的で機械的なもので作られていた。

「それは……」

「それはどうしてかしら?あなたにも何か心当たりがあるの?この世界への恨みや復讐というような……」

「私は、〝世界規約〟に違反なんてしていない」

「いいえ、そんなことは重要じゃないのよ……」

 傍らの女性は、明らかに少女で女子高生くらいの見た目をしている。ボブスタイルに、内側を白っぽいピンクに染めたツートーン。下がり目じりにつんとしたまつ毛をもっていて、瞳は薄い茶色で、黒目の縁がよく目立つ鋭い目力をもっていた。だが体もふるえ体格もしぐさも弱々しい。


 一方で拳銃をもっていた女性は髪を後頭部で団子上にまとめ、ウェーブのかかった前髪をもったフチが黄緑のサングラスをかけて、体格もよく、コートをきていて、おっとりとした印象のある優しい目をしていたが、目の奥はわらっていなかった。拳銃を持ったまま、そしてそれを話し相手に向けた。

「“ムーンメモリー”」

「!?……都市伝説じゃなかったの!???」

「―この世界においてもっとも順守されるべき〝世界規約〟62年前の新世界暦164年に、地球をその環境の完全なる破壊から守るべく私たち人類に〝AIオズオス〟が義務づけたもの」

「そうよ、最悪、死刑にだってなる、人権を守る事だって……」

「ええ、もちろん、でも〝例外〟はあるわ、つまりそれが―〝AIオズオス〟の演算にとって有意義な場合」

「ありえない〝AIオズオス〟は完全に人間の手でコントロールされているはずよ……〝ムーンメモリー〟AIが特別に人間に〝例外〟を認める、だなんて話」

「さあて、どうかしら、その統治がもっと複雑で、さらに外に〝陰謀〟があったとしたら……」

 少女は、信じられないといったように、笑いながら立ち上がる。あまりに非日常的な会話に、動揺して目の前の拳銃に対しての恐れをうしなっていた。

「ありえない!!〝人間〟が〝人間〟を殺すことをAIが許すはずないじゃない!!」

「信じられないなら証明してあげようか?」

「っ……」

 女は少女に向けた拳銃のトリガーにぐっと力をこめた。

「今ここにいる私が、その証明よ」

 次の瞬間、少女に向けられた拳銃は火を噴いた。


 女性の背後では、頭を打ち抜かれた男が横たわっている、その後頭部は完全に機械化されていて、銀色に光り輝いていた。

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