第3話 騙しに来たのか
『此処だわね!貴方が黒木理人で間違えないわね』
女の声がする…貧乏過ぎて幻聴が聞こえて来たのか…
この部屋で借金取り以外の声がする訳がない。
『私の名前は女神イシュタス』
女神…神だと。
俺は慌てて布団から飛び出た。
目の前に、凄い美人が立っていた。
俺はすぐに台所に走り塩を手に取った。
「この詐欺師がーーーっ、不法侵入までしてどうする気だーーっ」
「両親を騙しただけじゃなく、俺迄騙そうと言うのかーーーっ」
俺はこのペテン師に塩を掛けた…筈だが…塩はすり抜けた。
『なにするのよ! この女神イシュタスに向かって』
「馬鹿野郎! 俺は女神なんて信じない! 神を語る奴は俺達を騙して金を奪う最悪な存在だ…お前等宗教家に騙され…俺の両親は借金を苦に…自殺したんだ…お前はそれだけじゃ足りないのか? 俺も殺したいのか?」
『ふざけないで! 私は女神…本物よ』
「ふん、あの時もそうだ…爺ちゃんが末期の肝臓がんに掛って医者が見捨てた時『信心すれば治ります』『修行をすれば手当の法』が身につき治りますよ…そんな事を言う神の使者と名乗る男が来て、俺の母は入信した…お金も言われるまま借金して作り、寄進して、修行という名の如何しい行為すら受け入れたのに…死んじまったよ爺ちゃん…そんな母親に『神の使者』を名乗った男は信心が足りなかったからだって言ってまるでゴミを見るような目で俺達を見やがった…お前もどうせ同じだ…消えろよクソ女」
『私は…そんな事しないわ…』
「ふん…どうだか…良いか?! お前がどうこうじゃない…俺の両親は…ある意味純真で子供の頃から騙され続けた。それこそ、子供の時からな…そして俺もそれは同じだ…次こそは本物に会える。そう思い生きてきたが…幸運グッズも教えを説く者も皆、偽物で嘘つきだった…だからもう、俺は何も信じない…そう決めたんだ…あんたが本当に女神だっていうなら『両親が死ぬ前に何故助けに来なかった』神なら出来る筈だ」
『私はこの世界、この国の神じゃないわ…だから知らなかった』
「それなら、俺は親の遺産を正式に放棄したんだ…それなのに、俺を脅して金を無理やり奪っていく闇金の奴らを殺してくれ…女神何だろう、悪人は許せないよな?」
『それは出来ない…私はこの世界の人間を罰する事は出来ない』
「なんだ…やっぱり宗教詐欺じゃないか? それで詐欺女が俺に何かようなのか?」
『異世界で魔王が現れ困っている。そして一国の王族が勇者召喚をして君たちを呼ぼうとしたのよ...その呼ばれた存在にジョブやスキルを与え異世界で戦えるようにして送り出すのが私の務めなの…それでこの召喚の呪文は貴方のクラス全員に掛っているのよ…だから貴方にもジョブやスキルをあげるから異世界に行って欲しいの』
此奴の言う事を信じたとして…何故俺が行く必要がある。
此処に居れば安全なのに…
言い方を変えれば拳銃をやるからヤクザと戦え。
それに意味が近いじゃないか?
「お前も俺を騙そうとしているじゃないか? それが本当だとしても『死にもの狂い』で戦わないとならない筈だ…その事を碌に説明をしない事じたい詐欺みたいなものだ…今の生活は地獄だが…あんたの言う世界に行ったら、もっと地獄だ…行くもんか」
『貴方が行かないと、転移そのものが出来ないのよ! 沢山の人が死ぬ事になるの…良心が咎めないの!』
「別に…俺は両親が自殺して莫大な借金まで残されて充分不幸だが…異世界人は助けてくれないんだから…同じじゃないか? さっき俺を迫害する悪い闇金を殺してくれ…そう頼んだがあんた出来ないって言ったよな? そんな奴の為になんで俺が命がけで『殺さなくちゃならないんだ』」
『同級生も困るわ』
「べつにどうでも良い…関係ない」
『貴方に行って貰わないと困るのよ…どうしたら行ってくれるの?』
「行かない…」
『解ったわ…両親を生き返らせる事は出来ないわ…私の管理する世界じゃないとはいえ『騙された事に対する怒り』は良く解った…だったら、貴方や貴方の両親が『詐欺にあった事や物を全て嘘でなく本物にする』能力をあげるわ…頼むから、それで行ってよ』
「騙された事、全てを本当にする…そう言う事か?」
『そうよ…この世界の神や仏と違って私は慈悲深いのよ…これならどう?』
「それでも行きたくはないな…危険な世界だし」
『私が妥協するのは此処までだわ…これでも納得しないなら…何も与えずに行かせるわ…この魔法を掛けているのは私じゃない…なんならそれでも良いのよ?』
「解った…それで良いよ」
結局、此奴も詐欺師だ…ただ少しは話が解る…良い詐欺師なのかも知れない。
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