第2話 おとといきやがれ
(な、何だこいつ。こんなにずっと俺を見つめて。友達になってくれって)
小学校の昼休み。
六年二組。
クラスメイトのほとんどが校庭や図書室、音楽室などに遊びに行き、翔太と琳を含む三人だけが教室に残る中。翔太は目の前に立ち、友達になってくれませんかと言っては、ずっと自分を見つめる琳に強面と凄んだ声音を向けながら、内心、激しく動揺していた。
人間、なめられたらしまいじゃけえのお。
ヤンキーだったシングルの母親の教えの下、無差別格闘技を幼い頃から習い続ける翔太は常に強面で凄んだ声音を出せるようになっていた。
この強面にひるむような人間とダチになるな。
かと言って、へらへら笑って近づく人間ともダチになるな。
母親の教えを守った結果、無差別格闘技を習う友達はいるが、習っていない友達はいなかったのであったが、翔太は別に困らなかったのでよかった。
こんなまだまだ発展途上の強面と凄んだ声音にビビるような友達などいらなかったのだから。
それがどうしたことだろう。
絶対に自分に話しかけてこない、関わってこなさそうな弱弱しい女子が友達になってくれませんかと申し込みに来るなんて。
(も、もしかして、これは!!!)
翔太の頭に雷が直撃した。
これはもしや、告白。愛の告白では、と。
この世に産声を上げて十二年。
闘いの申し出を受けたことは、数知れず。
けれど。
ああけれど。
愛の告白を受けたことなんて、一度もない。
翔太は激しく動揺しつつ、激しく舞い上がりそうになる心を頑丈な拳で叩きつけた。
頭に流れるのは、母親の教え。
人間、なめられたらしまいじゃけえのお。
たかが一度の告白に心浮かれて、まかりまちがっても「はい」などと返事をしてはならぬ。
翔太は自分が今、最大限に厳しくできる表情にして、琳を睨みつけた。
睨みつけて。
おとといきやがれ。
と、言い放ったのであった。
内心、泣いたらどうしようかとドキドキしながら。
泣いたら泣いたらで弱い人間だと、この時はどうしてか、見限れそうになかったのであった。
(2023.5.23)
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