半分の愛を返すまで
ししおういちか
周りのせいにする、私のせい
残酷な現実だけど、女が与える愛のおよそ半分は、男から返ってくることはない。
半分ならまだいい。どれだけ思おうと、「友達」のままじゃ優しさは素通りしていく。だって、男が彼女以外の女に誕生日パーティーを開催する? 出掛けてもお揃いの服を着てくれる?
ほら、君はまた言ってるよ。
「記念日ってそんなに大事なのか?」
勘違い。カレンダーの日付に意味があるんじゃない。そう言わないと特別な毎日を続けてくれないから、側から段々離れていきそうで不安だから。
「それって何か意味あんの?」
もう! 何かにつけてそればっか。
私と一緒にいるのって、ご飯を食べたりトイレをしたりとかと同じ価値がないと駄目? 君が好きなことに結果とか過程とか関係ないよ。
大体、他人同士だった時から馬鹿にしてるけどさ。
「みんな同じような化粧」だって、最初はすごい苦戦したの。失敗する度に落として、恥ずかしいから親と兄弟もいない日を選ばなくちゃいけない。
ましてや君の前に出る、同じ空間にいるとなったらそれはすごい緊張感だよ。絶対成功させる為にすっごい早起きして、シャワーも浴びて。気づいてないだろうけど、寝不足のクマだって隠してるんだから。
それに加えて髪型だって一苦労なんだから——って。
何それ。「弁当作ってもらえるとか羨ましいな」?
あり得ない。みんなこんな目に遭って我慢してるの?
そんな時だけ迂遠な言い方。でも、その子の彼女は健気だね。そいつがガツガツ食べる時間の数十倍、欠伸噛み殺しながら指を傷つけてたりして。
毎日こんな感じだ。女達は気付きすぎる。そして男達はそもそも顧みない。
でも女の愛は無限じゃない。与えた分が埋められなくなり、空っぽが近づいて爆発する子。
他の友達も、集まる度に陰口が増えてきた。
知ってる? 女の導火線はわかりやすく燃えたりしない。ぶすぶすと音もなく焦げていって、ある日突然終わりを告げるよ。君は気づけないだろうけど。
また、別の人とくっついてみた。うん、優しいな。でも最初の内だけだから、大切にしなきゃ……少しでも長く、空白を埋められるように。
……は? なんか別れた後文句言ってるみたい。
「始めようとしても、すぐ恥ずかしいって始まるから」
「急に泣くから慰めるの大変だった」
「LINEの相手すんの、いきなり来て長いしメンドかった」
「たまに来る、無言で抱きついてくるやつ何なの?w」
……あ、やばい。来る。
全部周りのせいにしたい衝動。すごく痛い、痛い。何日間か泣きそう、でも帰るまで我慢。
ここで怒ったり泣いたりしてるの見られたら、今彼にも面倒臭い女って思われる。関係ない、興味もない男の正論で納得するしか許されなくて、もっとひどい痛みになっちゃう。
帰るまで我慢できないかも。今すぐLINEしちゃおうか。
和らげてくれるかな? ねえ、つらいよ。
「おかえり……って、あんたひどい顔」
「おーい、風呂空いたぞ——おかえり。何か嫌なことでもあったか? 父さん達に話してみろ」
あれ? 言って欲しかった言葉だ。
気がつかなかった。すぐ側にいたんだ。照れ臭いな。強がって部屋に戻っちゃった。
今は上手く愛せないけど、いつか返せる時が来るのかな?
ありふれた言葉だけじゃない、自分に最初の愛を注いでくれた人達に。
半分の愛を返すまで ししおういちか @shishioichica
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます