第98話 魔物の生態系異常9
エリーナとの別れをロイさんから突然告げられた。私とエリーナはお互いに驚いたが、もちろんその意味合いはそれぞれ違っていた。
私の場合は『この師弟関係から開放される!?』という安堵の気持ちであり、エリーナは『まだ修行は終わってないぞ!?』という焦りの気持ちだった。
でもそんなことはお構いなしとでも言うように、ロイさんは話を続けた。
「エリーナ、君はそろそろ王都に帰らないとマズイよ。まさか修行に明け暮れてあの予定を忘れたわけじゃないよね?このままだと、間に合わなくなるよ」
「・・・そうだった」
あの予定とはなんだろうか。辺境の街フロンダで2人に出会ってからすでに20日程は経過している。山脈都市マトンでロイさんが足止めを食らっていたので、当初の予定よりも遅れているのは間違いないだろう。
「王都で何かあるんですか?」
「もうしばらくしたら、王都近郊で4年に1回の武術大会が開かれるんだ。スグルくんは聞いたことないかな?この国の腕に自信のある猛者たちが集まる大会さ」
ロイさんが言うには、この国の最強を決める大会らしい。エリーナは出場資格が得られる15歳の頃に1度参加しており、今年はどれくらい成長したかの腕試しということで出場する予定だったそうだ。
そんな大事な大会をエリーナが忘れていたとは。私との修行に熱中し過ぎていたのかもしれない。
「そんな大会があるんですね。エリーナの成績はどんな感じなんですか?」
「たしか前回は予選を勝ち上がれたんだけど、本戦ですぐに負けちゃってたかな。エリーナ、そうだったよね?」
「昔のことはもう忘れた。だが、今は誰にも負けないがな」
当時は冒険者ランクA相当の実力を持っていなかっただろうし、上には上がいるから優勝できなかったとしても仕方がない。
でも私との修行でエリーナはさらに強くなっただろうから、今回出場したら前回よりは良い成績を残せるだろう。
ただ私との修行はあくまで魔物相手だったから、対人相手の大会となると、また勝手が違うんだろうな。
「そういうイベントがあるんですね。じゃあエリーナとの修行はこれにて一旦終了ってことになりますか?」
「そうなるね。エリーナもいいよね?」
「くっ、・・・わかった」
エリーナは私と師弟関係を結んで修行することで、ようやく強くなれたと実感でき、これからも師事を受けてもっと強くなれると期待していたのだろう。非常に残念そうに渋々了承した。
私はようやくエリーナから開放されると喜ぶ反面、人の
でも生きてさえいればまたどこかできっと会えるだろう。
「あ、スグルくんもいっしょに王都についてくる?」
「行きませんってば!」
これにて一件落着かと思ったが、ロイさんは私を王都に連れていくという当初の目的を忘れていなかったようで、ちゃっかり勧誘してきた。
もちろんお断りだ。
王都に行くとしたら、貴族と関わることなく自由な状態で行きたい。面倒事に巻き込まれるフラグは立てないように気をつけよう。
夕食兼報告会が終わるとロイさんから冒険者ギルドに提出する報告書を受け取り、私たちはロイさんの屋敷を後にした。
エリーナとはここでこのままお別れする予定だったが、依頼報告書の提出のため、一緒に冒険者ギルドに向かっている。
ミズキはというとお腹いっぱいになったためか、夕食兼報告会の終盤にはうとうとしだして、今は私におんぶされていた。
「・・・師匠、今までありがとう」
「えっ、急にどうしたの?」
「もう会わないかもしれないから、礼はしておこうと思って」
突然のエリーナからの感謝の言葉に私は動揺した。歩きながらだったが、その場で軽く会釈もされた。
そういえば修行開始のときも最初にお詫びされたんだった。エリーナは他人に対しては無礼講な感じがあるが、仲間内に対しては
「感謝の言葉、受けとるよ。武術大会を見たことがないからよくわからないけど、頑張ってね」
「あぁ、師匠に教わったことを十分に発揮してくる」
エリーナとの別れが近づいていることを実感したことで少し寂しい気持ちになりながら、私たちは冒険者ギルドに到着した。
私たちはロイさんの指名依頼の報告を済ませ、そして私とエリーナの冒険者支援制度の師弟関係の登録を解除した。
◇ ◇ あとがき ◇ ◇
人物紹介
【スグル】
主人公。
【エリーナ=ロンダルタント】
王都調査員の護衛騎士だったが、スグルに弟子入りを希望。冒険者ランクA相当の実力があるが、冒険者支援制度(師弟関係)を利用するために冒険者ランクFとして登録した。
【ミズキ】
魔物ランクAの水竜。青いドラゴンの姿だと人と話せないが、見た目が8歳の男の子に変身すると会話が出来る。
【ロイ=ハルバートン】
辺境の街フロンダに来た王都からの調査員。貴族。今は山脈都市マトンで足止めをくらっている。
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