第71話 調査員7

エリーナの冒険者登録が終わったようだ。ミレイさんは私に向かって、ごめんねといった感じに申し訳なさそうな顔をしていた。


なぜだろう。 


その後、ミレイさんはエリーナに話しかけた。



「エリーナさんは今まで冒険者登録をしたことがないので、ランクFからのスタートになりますが、よろしいでしょうか?」


「問題ない。あと冒険者支援制度の利用をお願いする」


「了解しました。師弟登録の相手はどなたですか?」


「スグルでお願いします」



初耳だが冒険者支援制度とはなんだろう。私が登録したときにはそんな話はなかったはずだ。



「ちょっとすみません。その冒険者支援制度とはなんでしょうか?」


「スグルくんのときには説明してなかったけど、この制度は本来ランクの高い冒険者が利用する制度なのよね。見込みのある低ランクの冒険者を指定して、師弟関係を結んで面倒をみる制度なんだ。この制度がなかったとき、他の冒険者にちょっかい出されたり、引き抜きにあったりすることがあって問題になったのよね」



そんな制度があったとは。確かにランクの低い冒険者はランクの高い冒険者とパーティを組んでも、高ランクの依頼をこなせないことが多い。


そうなると普段はパーティを組まずに離れて生活することが多くなる。もともとの師匠がいない間に、他の冒険者からちょっかいやら引き抜きやらを受けてしまうとなると、これは良くない状況だ。


そこで冒険者支援制度として師弟関係を結んでおくことで、予め所属がはっきりしてトラブルも減るそうだ。



「そんな制度があったんですね。私のときにも教えてくれても良かったじゃないですか」


「スグルくん、森でおじいさんと2人きりで過ごしていたっていってたから、こっちに知り合いいないでしょ?」



「・・・そうでした」



そういえば、じいさんと2人で森の方で暮らしていたけど、じいさんがお亡くなりになり、ひとりで森では生きていけないので、生前にじいさんから聞いていた街に降りてきましたという設定があったな。


・・・私、ぼっちだった。




「あれ?ということは、本来は私から師弟関係を結ぶ流れになるんじゃないですか?」


「そうなんだけど、実はこの制度、ランクの低い方から高ランクの冒険者を指定して師弟関係を結ぶことも出来るのよ。もちろんどちらにせよ師弟関係を結ぶ前に、不利益をこうむらないように冒険者ギルドである程度調査してからの承認にはなるんだけどね」



なんということだ。


まずは落ち着いて状況を整理しよう。


ロイさんがエリーナの護衛任務を解消した。そしてエリーナが冒険者に登録して、冒険者支援制度を利用して私と師弟関係を結んだ。



「すみません、質問していいですか?」


「もちろんいいわよ」


「私とエリーナさんとの師弟関係、ギルドの調査結果はどうだったんですか?」


「エリーナさんは貴族推薦があるし、スグルくんは素行がいいし、どちらも問題なしと判断されてるわよ」


「そうなんですね・・・」



冒険者ギルド的にはこの師弟関係は問題ないそうだ。でもエリーナは奥義スキルを使えるほどの強者だ。そもそもランクFはおかしいのではないだろうか。



「エリーナさんはロイさんの護衛に選ばれるほどの実力者ですよね。冒険者ランクFからのスタートっておかしくないですか?」


「冒険者ギルドとしても、実力は十分だから高ランクからのスタートを提案したんだけど、本人が頑なに拒否をしちゃってねぇ。理由を聞いても教えてくれないのよ。ロイさんからの推薦状も『低ランクからのスタートを望む』って書かれていたからギルドマスター判断でランクFからスタートすることになったのよね」



理由を話していないということは、私の実力を話さないという約束を守っているのだろう。エリーナに勝った私の冒険者ランクはD。師弟関係を結ぶなら、私に負けたエリーナはそれよりも下のランクじゃなきゃダメとか考えたのかな。




「まぁそういうわけだから、スグル。エリーナのことをよろしく頼むよ」


「師匠、よろしく頼む」



周りの人たちの顔を見てみる。ロイさんは面白そうにニヤニヤしている。エリーナはしてやったりといった顔をしている。ミレイさんは申し訳なさそうな表情だ。


事前に打ち合わせをしていたようだし、これは何を言ってもくつがえらないんだろうな。



「・・・はい、わかりました」



これは詰んだな。

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