第70話 調査員6

あれからエリーナの尾行はなくなった。


どうやら彼女は約束を守ってくれたようだ。私は解体倉庫へ素材納品をしながら、日中はエリーナとの戦いで荒れた辺境の森にある小屋周辺の整備をしていた。


というのもエリーナに会わないように辺境の街フロンダから意図的に離れようとしていたからだ。ただ最近は冒険者ギルドで全然依頼を受けていないし、そろそろ顔を出さないといけないころだろうな。


そう思い、恐る恐る冒険者ギルドに入り、こそこそ移動して掲示板の依頼票を眺めていた。すると、後ろから近づいてくる人がいた。



「やっと顔を出したわね、スグルくん」


「お久しぶりです。どうしたんですか?」


「どうしたもこうしたもないよ。スグルくん、何したのよ。調査にきていた貴族のロイさんから、スグルくんがきたら教えてって言われるのよ」



声をかけてきたのはミレイさんだった。どうやら私が冒険者ギルドに顔を出さないうちに、何かあったらしい。やっぱりエリーナ関連だろうな。



「ちょっとロイさんのところに連絡してくるから、しばらくここで待っててくれるかしら?」


「・・・それって拒否権ありますか?」


「拒否はできるけど貴族相手だからねぇ。ロイさんは悪い人じゃないけど、会っておいたほうがいいんじゃないかな」



ミレイさんの助言を素直に聞き入れ、依頼票をながめながら待つことにした。





しばらくすると、ミレイさんから別室へと案内された。


部屋に入るとそこにはロイさんとエリーナがいた。案内が済んだミレイさんは退出せずにそのまま部屋に残っていた。



「やっと会えたね。急な面会でごめんね」


「こんにちは、ロイさん。私に何か用でした?」


「実はスグルにお願いがあって、こういう場を設けてもらったんだ。」



ロイさんが話をしている間、エリーナはムスッとした顔をしていた。表情からは感情を読むのは難しそうだ。


ロイさんの話はやはりエリーナ関連だろうか。これ以上付け回らないようにとエリーナには伝えたはずだけど・・・



「スグル、僕の専属護衛にならないかい?」


「専属護衛ですか?」


「そう。拠点を王都に移してもらうことになるけど、護衛任務がないときは基本的に王都で自由に過ごしていいよ。ただ僕が遠方に行くときには護衛任務をしてもらうことになるかな。給金もはずむから生活に困ることはないよ」



なるほど。王都には行ったことがないから、いつかは行きたいなとは思うが、誰かの下についていくとなると自由度は下がってしまう。となると、一緒に行く必要はないだろうな。



「あの、お誘いはありがたいのですが、お断りさせていただきます。すみません。私は冒険者ですので、誰かの下につくことなく自由でいたいんです」


「『誰かの下につくことなく』ね。そっかぁ、冒険者ランクDにとっては結構いい条件だと思うんだけどね。でもまぁスグルならすぐにランクが上がっちゃうかな」



ロイさんは残念そうな顔をしたけど、私の考えを受け入れてくれたようだ。エリーナはというと、変わらずムスッとした表情だ。変わりにロイさんはニヤリとして、エリーナの方を向いて立ち上がった。



(えっ、なに?)



「それじゃあ、只今をもってここにいるエリーナ=ロンダルタントをロイ=ハルバートンの護衛任務から解くこととする」


「承知しました」


エリーナはロイさんの前で片膝を付き、貴族からの護衛依頼解消を受け入れた。突然の対応に私はただ様子を見ていた。護衛任務として来ていたエリーナの仕事がなくなるということは、どういうことだろうか。



「そして、ミレイさん。エリーナの冒険者登録をお願いします」


「はい、承りました」



エリーナはようやく私の番だと言いたいのか、先程のムスッとした表情から口角を上げてニヤリとした。ミレイさんはロイさんからお願いされ、エリーナの冒険者登録を始めた。


もしかするとミレイさんはこのために部屋に残っていたのかもしれない。前もって打ち合わせをしていたということだろうか。


護衛任務を解かれて冒険者登録をするエリーナ。



・・・なんか嫌な予感がするな。

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