百合の間に挟まれるくらいなら、死にたい
日奈久
第1話 二股相手が2人とも飛び降りたってマジ?
「卵焼きにお塩入れるの忘れてた。」
母親が、一口食べた卵焼きの断面を言ってそういった。
「醤油でもかければいいだろ。」
父親は醤油差しを手にして言った。
「これはこれで美味しいけど?」
俺はそう言いながらもう1つ箸でつまむと、口に入れた。
「砂糖だけでも悪くはない……のかな?」
焼き魚に卵焼き、ほうれん草のお浸し、なすの味噌汁ーー和食ばかりで何だが物足りない。
両親との夕食時、いつものローカルニュースのコーナーを見ていた。
2人の女子高校生が飛び降りをしたらしい。
映像は俺にとってよく知る場所だった。
「
「ああ。本当だ。」
「ーーには、女子生徒たちの遺書などは見つかってません。」
ちょうど、スマホにもメッセージが入ってくる。
俺は、クラスのグループメッセージを開いた。
クラスメイトたちが色々と憶測や感想を飛ばしていた。
『こず
『自殺?事故?』
『即死だったのかな?』
『うわ……ヤバくね。』
『画像とか出回ってんのか?』
『なあなあ!あの2人付き合ってたらしいぞ。』
『は?どういうこと?』
『レズなの?』
『でも、確か……。』
『どっちかに彼氏いたって聞いたことあるよ……?』
『え、意味わかんない。』
手が震えた。
「アンタ、顔真っ青よ?魚の骨でもーー。」
母親が言い切る前にトイレに駆け込み、胃の中のものを全て戻してしまった。
「嘘だろ?」
こず恵も斗海も俺の彼女だった。
ニュースによると、あの2人が心中をしたらしい。
結婚できないから死ぬ?
意味がわからない。
それぞれ俺に告白して、俺と付き合ってたじゃん?
要するに俺が二股していただけなんだけど。
俺も二股してたけど、アイツらも二股してたのか?
「おい、大丈夫か?」
父親が心配して駆けつけてくれたようで、ドアを叩く。
「魚の骨が変なところにささっただけだから。」
俺はドアを開けて、心配する父親の横で弱々しく咳き込んだ。
「ごめ、喋るのきつい。ちょっと寝る。」
「あ、ああ。お休み。もっと具合悪くなったら言えよ。病院連れて行くから。」
その声を背景に、さっさと1階の自室に入って電気を消した。
そして、モバイルバッテリーと自転車の鍵と財布を持って窓から飛び出した。
「ああ!クソ!!」
自転車に乗ると、学校の方へ走り出した。
特に意味はない。
今、家にいると叫びそうだ。
それはそれで心配されそうだ。
夜風が冷たくて、それが自分の熱っぽさを加速させる。
事件がどうのこうのじゃない。
衝動的に1人になりたかった。
俺の頭は混乱したままで、現実が受け入れられない。
騙された?
いや、俺が騙してた?
裏切られた?
いや、裏切っていた?
全くわからなかった。
そもそも何でこんな自分でもわけのわからない自体になったんだ?
ただ1つ言えるのは
「俺ってクズじゃん。」
自転車を止めて、唯一の事実を呟いた。
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