夜空に青い満月が浮かぶとき

元 蜜

プロローグ

 青い満月が綺麗な夜、私たちは同じ時間、同じ場所でこの世に別れを告げた。ただ一つ違うのは、 “生きている世界が違っていた” ということ――



 私は≪真中紬まなか つむぎ≫、現実世界を生きる15歳。母親と二人暮らしで、学校でも友人と呼べる人がいない、孤独いわゆるボッチな生活を送っている。


 ワタクシは≪ミリユ・フィレール≫、異世界に住む15歳。貴族の娘でもあるワタクシは、フィルベノア国の第一王子と婚約中で、傍から見れば羨ましいほどの順風満帆な人生を歩んでいる。


 そんな共通点もなく生きる世界も違う私たちは、ある日同じタイミングで事故に遭った。


 その日、お昼頃に降り始めた雨が夕方には上がり、道の所々に大小の水たまりを作っていた。夜空には珍しい青い満月が出ており、水たまりにその姿を揺らめかせていた。

 私たちはそんな夜道を一人で歩いていた。そしてそれぞれの世界で、私はトラックに、ミリユは荷馬車に跳ねられたのだ。


 事故の衝撃で私たちの身体は宙を舞い、満月が浮かぶ水面の上に倒れ込んだ。意識が朦朧とし始め、走馬灯が頭の中を流れる。


 家族も友人もいない孤独な毎日……


 自由を奪われた日々……


 思えば後悔ばかり残る人生だった……


 そのうち意識が身体から離れていき、意識だけが水たまりに沈み込んでいく不思議な感覚に襲われた。それはまるで底なし沼かのように深く、深く……。そして眠気に襲われたかのようになり、徐々に意識が遠のいていく。


 このまま死ぬのなら……


 もっと幸せな人生を送りたかった。


 もっと好きなことをして暮らしたかった。


 死を覚悟したその時、私たちの願いを叶えるため、夜空に輝く青い満月が水たまりに摩訶不思議な道を創った。それは現実世界と異世界とを繋ぐ道。


 深く沈んでいた私たちの意識が一気に急上昇を始める――



◇ ◇ ◇

 

「――つむぎ!」


「――ミリユ様!」


 身体に力が戻り、誰かに名前を呼ばれ目が覚めた。


「「……あなた方は一体誰? ここは一体どこ?」」


 見慣れない顔ぶれ、初めて見る景色……。私たちは自分の置かれた状況がすぐには理解できなかった。

 それもそのはず。次に目覚めた時、私はミリユの世界へ……、ワタクシは紬の世界へ……、私たちはお互いの世界に転生していたのだった。

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